【名もなき家事】夫婦の家事分担に細分化は向いていない!その理由とは

 近年、「名もなき家事」と呼ばれる細かい家事まで細分化することが話題となっています。

 「名もなき家事」とは、例えば「傘立てから収納する」「子どもの水筒に飲み物を入れる」「裏返しの靴下を直す」といった、一般的には家事としての名称が無い、細かい作業のことを指しています。

 この言葉の根源は、悪く言えば「家事は大変なんだから!」という大変さアピールのために生まれたものだと推測されます。

 ただ、仕事においても「名もなき仕事」は存在します。例えば「メモした付箋紙を捨てる」「上司の未確認BOXにある自分の書類を一番上に移動する」といったものです。

 当然ながら、このような作業をしていることをアピールすれば馬鹿にされますが、何故か「名もなき家事」に対しては、称賛の声が多く聞かれます。

 「名もなき家事」をひとつひとつリストアップして、夫婦で役割分担することをおすすめしている書籍やサイトもあります。

 それを信じて、「我が家でもやってみよう!」と思う家庭もあるでしょう。しかしながら、そのような細分化をしてもうまくいかないケースもあると考えられます。

 本記事では、何故、家事の細分化をするとうまくいかないのか、家事の細分化をオススメしない理由について、紹介しています。

 なお、「名もなき家事」を分析に用いて家事の効率化に活かそうとしている建設的な書籍もあります。この書籍には、見えない負担を軽減する為に役立つ知識が豊富に含まれている為、気になった方はご覧いただければ幸いです。

1.家事を細分化したいと考える理由

 まず、多くの書籍や記事で名もなき家事の細分化が称賛されている理由について、紹介します。

1-1.家事の負担感を共有したい

 名もなき家事を細分化するひとつめの理由として、「家事の負担感を共有したい」ということがあります。

 例えば、毎日料理をした経験がない男性の中には、「料理を作るだけでしょ」と考えている場合があります。

 実際には、「献立を考える」「作り方を調べる」「必要な具材等を揃える」「栄養に応じて副菜を整える」といった「名もなき家事」が存在します。

 毎日料理をしている方であれば、この「献立を考える」ということが、意外と大変であることは知っているでしょう。

 その他、多くの家事をこなす為には、常に多くの事柄が頭の中にあり、そういったことも負担のひとつになると考えられます。

 そういった実働(身体的負担)だけではない、精神的な負担について共有する為に、家事を細分化することが有効だと考えられています。

1-2.夫婦で平等に家事を分担したい

 続いて、名もなき家事を細分化するふたつめの理由として、「夫婦で平等に家事を分担したい」ということがあります。

 イメージされやすい家事(料理、掃除、洗濯など)を分担しただけでは、家事の負担を十分に分担できないことも少なくありません。

 例えば、未経験の夫に掃除を割り振っても、「床拭きだけで片付けができていない」「掃除機をかけていない」といったことが起きる可能性があります。

 夫に家事を分担しても十分な成果が得られるように、分かりやすく家事を細分化しているケースもあります。

1-3.家事の無駄を排除して効率化したい

 また、家事を細分化するみっつめの理由として、「家事の無駄を排除したい」ということがあります。

 妻から夫に家事の負担を分散するのではなく、単純に「不必要な家事」や「非効率な家事」を洗い出すために、細分化しているケースもあります。

 この目的に関しては、筆者自身も共感しています。但し、一連の流れ(業務フロー)を可視化する必要があり、単なるリストアップでは意味がないと考えられます。

 冒頭でも紹介しましたが、家事の無駄を排除して効率化する為に、「名もなき家事」を活用している書籍もあります。

2.夫婦の家事分担に細分化が向いていない理由

 続いて、これらの「家事を細分化する理由」を踏まえた上で、筆者が「家事の細分化は、夫婦の家事分担に向いていない」と考える理由について、紹介します。

2-1.「名もなき家事」は無限に存在する

 まず、大前提として「名もなき家事」は無限に存在するはずです。

 極端な例を挙げれば、「カーペットの位置を修正する」「リモコンの位置を直す」「キッチンまで歩く」等、細分化すればキリがありません。

 「キッチンまで歩く」はさすがにおかしい、と思われるかもしれませんが「子どもの水筒をかばんから出す」「子どもの水筒を洗う」「子どもの水筒を片付ける」と細分化されている事例があり、概念的にはほとんど変わりません(筆者の常識的に考えれば、せいぜい細分化しても「子どもの水筒管理」くらいまでだと思います)。

 そもそも家事を細分化する目的の多くは、「夫婦間の家事全般を共有する」ということだと考えられますが、無限に細分化できるものを、妻の概念で細分化したところで、本当に夫と家事全般を共有することはできるでしょうか。

 元々、夫婦間の概念に差があることを前提にすれば、「妻にとってはここまですれば分かる」と考えて細分化していても、それでは「夫には分からない」ことも少なくありません。

 先ほどの水筒の例に戻ると、妻にとっては「子どもの水筒管理」で分かるはずだと考えていても、夫にとっては「水筒を見ておけばいいのか」程度に捉えてしまう可能性もあります。

 その為、妻は先ほどの例のように、「子どもの水筒をかばんから出す」…、というように作業をさらに細分化することで、解決しなければいけなくなります。

 そこまで極端な例は多くありませんが、そもそも物事の細分化は、その物事の本質が見えなくなる(複雑化させてしまう)為、「物事の共有」を目的とする場合には、不適切な方法だと言われています。

 そのうえ、ほぼ無限に存在する作業を「妻の概念」で細分化する為、さらに家事の本質が見えなくなると考えられます。

2-2.「名もなき家事」は負担感を増大させる

 続いて、「名もなき家事」による家事の細分化は、夫婦の負担感を増大させる可能性があります。

 数百個に細分化された家事を、ひとつひとつ確認しながら作業しようとすると、数十個の「名もなき家事」を終わらせても、まだ数十個の「名もなき家事」が残っている為、心理的な負担が大きくなります。

 例えば、「洗濯物畳むだけ!」と思えば気持ちも楽ですが、あと「洗濯物を取り込む」「ハンガーしまう」「シワを伸ばす」「子ども用と分ける」…となると、急に負担感を感じやすくなります。

 実際には、洗濯物を畳む過程を理解していれば、この負担感は細分化していてもしていなくても変わりませんが、理解度が低い場合「大変だ」と負担感を感じやすくなります。

 そういった意味では、「大変さアピール」には向いているのかもしれませんが、夫婦間で大変さをアピールしても意味はなく、ただ精神的な負担が増えるだけと言えます。

2-3.「名もなき家事」は自立性を失わせる

 さらに、「名もなき家事」による家事の細分化は、夫の自立性を失わせる可能性があります。

 本来、「名もなき家事」は家事を主体的に経験していれば、当たり前にできるようになる行動でしかありません。

 そのような細かい家事を極端に細分化してしまうことで、「これだけやればいい」と勘違いしてしまい、自ら考えて行動しなくなる可能性があります。

 「名もなき家事」は、子育てのステージ(幼児、乳児、小中高…)や、季節によって変化することも少なくありませんが、夫の自立性が養われていないと、そういった変化に対応することができません。

 家事に少しの変化があるたびに、妻が細分化しなおさなければいけなくなります。

 また、いつまで経っても妻の言ったことしかしない(リスト化したものしかしない)為、妻の家事や育児の負担感は軽減することはありません。

2-4.「名もなき家事」は主体的に向き合えば自然と見えてくる

 結局のところ、「名もなき家事」は、特定の家事(洗濯、料理等)に付随する行動や、相手に対する気遣い(思いやり)と言えます。

 つまり、家事に主体的に向き合っていれば、自然と習得できるはずです。

 実際に、妻自身も「名もなき家事」を誰かに教えられたわけではないはずです。

 「親がこういう風にやっていたな」という経験や「相手がこうすれば喜ぶだろうな」という思いやりを頼りに、自然と名もなき家事を習得しているはずです。

3.家事の細分化よりも相手の主体性を高めよう

 これまでの内容から、家事の負担を夫婦で分担したいと考えている場合は、家事の細分化をするのではなく、夫の自立性(主体性)を高めることが大切だと考えられます。

 夫の主体性を高めるには、「名もなき家事」と言えるような細かい注意点を、夫に実践させながら教えていきます(例えば、洗濯物を洗って干して片付ける、までの一連の流れを経験させます)。

 何度か一通り経験させれば、あっという間に「名もなき家事」を覚えることができるはずです。

 そこまでくれば、わざわざ文書化した「名もなき家事」リストは、全く必要ありません。一連のやりとりによって、夫婦の会話にも繋がります。

 そして、家事の一連の流れを経験していれば、新たな「名もなき家事」が必要になった時も、夫が自分で考えて対応することができるようになるはずです。妻が見直す必要もありません。

 なお、夫の主体性を高める方法については、別記事(【夫婦必見】全く育児しない夫を協力的にさせる方法!)にて詳しく紹介していますので、よければ合わせてご覧ください。

 最後に、筆者の家庭では、家事は「料理、掃除、食事、洗濯」程度にしか分けていません。

 それでもお互いにお互いの家事のやり方を経験していることで、ほとんど不満なく家事や育児の分担ができています。

 反対に、同僚は家事の細分化をしまくっているようですが、夫は指示したことしかせず、指示待ち人間になっているようです。

 仕事に置き換えれば分かりますが、そもそも物事の細分化は、問題点や改善策を探る際には有効ですが、物事を共有する際には向いていないはずです。

 一概に「細分化=良くない」とは言えないかもしれませんが、もしも細分化がうまくいっていないのであれば、家事の細分化を一旦やめて、お互い(妻)の家事のやり方を共有したうえで、相手を"信頼して"任せてみてはいかがでしょうか。

 「名もなき家事」リストで相手を追い詰めることはやめて、夫婦でしっかりと話し合って、協力し合う環境にしていけることを願っています。