田舎暮らしは子育てに最適な環境か【自然派】

 近年では、東京や大阪といった都市部に人口が急速に集中していますが、その一方で、テレワークや地方創生が進み、新たに田舎暮らしを望む家族も増えてきています。

 そこで、本記事では、田舎暮らしと都市暮らしの両方を経験した筆者の経験を基に、田舎暮らしで得られる子育てのメリット・デメリットについて、紹介します。

1.田舎暮らしが子育てに与えるメリット

 まずは、一般的に田舎暮らしが子育てに与える (田舎暮らしに望まれる)メリットについて、紹介します。

 但し、当然のことながら、同じ「田舎暮らし」といっても、数km圏内に全く民家が無い限界集落的な田舎もあれば、ほどよく田畑が広がりつつも、数km圏内に民家やスーパー、病院がある田舎もあります。

 つまり、これから紹介するメリットは、田舎暮らしのスタイルによっては、得られない可能性もあることをご理解ください。

 ちなみに、筆者の暮らしていた田舎は、「小学校はクラスに10人程度、近隣は高齢者ばかりで顔見知り、スーパーやコンビニ、小学校は数km先」という環境でした。

1-1.地域交流を通じて多様な経験を積みやすい

 やはり田舎暮らしの醍醐味でもある、地域 (近隣住民)との交流を通じて、多種多様な経験を積みやすいということが考えられます。

 例えば、「昔ながらの遊び方や遊具を教えてもらう」「突然、家に知らない人(親は知っている人)が入ってくる」「アポなし訪問は当たり前」「物々交換 (多めに作る)は当たり前」といったことがあります。

 田舎では鍵を閉めないことまであり、お盆やお彼岸には地元のお坊さんが入ってきて、サッとお経を唱えて帰っていくことまであります。

 また、出荷できない規格外の食材や、自分たちだけでは食べきれない食材をおすそ分けし合うことも頻繁にあります。

 そういった都会では経験しにくい「人付き合い」を通じて、人と人との関わり方を学ぶ子育てをしやすいと考えられます。

1-2.自然交流を通じて食への関心が高まりやすい

 こちらも田舎暮らしの醍醐味ですが、自然交流を通じて食 (や命)への関心が高まりやすい、ということも考えられます。

 野菜やお米等を自給自足する場合は、その過程から食物に対する関心が高まりますし、その大変さから食物を大切に扱う感謝の気持ちも生まれやすいと考えられます。

 また、肉類まで自給自足する場合は、その過程から食の残酷さや命の有難みを、より身近に感じることもできるはずです。

 その他、エネルギー (熱や電気)まで自給自足する場合は、自然との共生まで考えなければならず、無駄遣いといったことも無くなるでしょう。

 現代では、「水道を回せば水が出る」「スイッチを押せば電気がつく」といったことが当たり前になった一方で、そのエネルギー供給へ感謝する機会は減ってきています。

 都会では経験しにくい自給自足生活を通じて、命やエネルギー、仕事に対する感謝の気持ちを育む子育てをしやすいと考えられます。

1-3.個性を活かしてのびのび育てやすい

 また、田舎は都市部に比べて人口が少なく、子どもの個性を潰さずに、のびのびと育てやすいことも考えられます。

 特に、限界集落並みの田舎では、子どもの人口が極端に少なく、ひと学年に数人~10人程度の場合もあります。

 必然的に多数派という概念が生まれにくく、いじめも起きにくくなると考えられます (但し、新たに田舎に引っ越した場合は、その限りでは無いかもしれません)。

 同世代の誰かと比べられる機会も少なく、子どもらしくのびのびと育てることができるでしょう。

1-4.不便さを通じて生きる力を身に付けやすい

 また、田舎には、スーパーが少ない、公共交通機関が少ない等、様々な不便さもあります。

 その不便さを活かして、自ら困難を解決する力 (社会で生きる力)を身に付けることができると考えられます。

 不便なことが多い為、両親だけでは回らず、子どもが収穫や調理を手伝っている場面も多くあります。

 便利な都市部では経験しにくい不便さを通じて、子どもの生きる力を育む子育てをしやすいと考えられます。

1-5.外遊びを通じて身体づくりをしやすい

 さらに、田舎暮らしでは、必然的に外遊びが多くなります。現代では、田舎であってもゲームやインターネット環境は手に入りますし、屋内での遊びができないわけではありません。

 しかし、田舎暮らしでは、野菜作り等を通じて、外に出る機会が多くなりますし、虫取りや雪遊びといった季節に応じた自然の変化も多く、都市部に比べて、楽しい外遊びを経験しやすくなっています。

 自分たちの田畑内であれば、交通事故などの心配もありませんし、自由に身体を動かして走り回ることもできます。

 都市部のようにジムトレーニング等はしにくいかもしれませんが、そういった設備を利用しない幼少期の子育てには向いていると考えられます。

1-6.能動的に情報を収集する力を身に付けやすい

 また、田舎暮らしでは、能動的に情報を収集する力 (自ら情報を集める力)が身につきやすいと考えられます。

 都市部では、TVやSNS、通学、学校といった生活の中に、多くの情報 (主に広告)が溢れかえっています。その為、受動的な情報を選別する (自然に入ってきた情報を選別する)だけで、手一杯となってしまうこともあります。

 SNS等を見すぎてしまうことで、SNSの社会が当たり前と錯覚してしまい、自分自身の価値観まで書き換えられてしまうことまであります。

 その為、現代では、「情報を正しく選別する力が必要」とまで言われるようになりました。

 しかし、田舎暮らしでは、自らが行動したことからしか新たな情報は得られませんし、誰かから物事の一部分を教えてもらったとしても、残りは自分で考え、試行錯誤しながら解決していく必要があります。

 つまり、田舎暮らしでは、自分の望む姿を実現する為に、自分の欲しい情報を適切に収集する力を育む子育てがしやすいと考えられます。

1-7.地域社会の支援を得やすい

 続いて、田舎暮らしでは、地域社会の支援を得やすいといったメリットも考えられます。

 田舎では、近隣住民が顔見知りになりやすく、子どもの見守りや事故防止に繋がりやすくなっています。

 但し、新たに田舎に引っ越した場合は、除け者にされたり、嫌がらせ行為を受けるケースもある為、引っ越しを考えている場合は注意が必要かもしれません。

 具体的には、「自分の前だけ清掃、草刈りしてくれない」「ごみを放棄される」「無視される」といった嫌がらせを受ける場合もあるようです。

 都市部のように、行政や公共機関が機能しきっていないことが多く、地域社会の支援が得られない (又は嫌がらせを受ける)と、田舎暮らしを継続することは難しいかもしれません。

2.田舎暮らしが子育てに与えるデメリット

 続いて、田舎暮らしが子育てに与えるデメリットについても紹介します。

2-1.日用品類や流行りものを入手しにくい

 まずはじめに、日用品類や流行り物を入手しにくい、といったことが考えられます。田舎暮らしで一番イメージしやすいデメリットかもしれません。

 現代では、田舎でもAmazonや楽天で日用品の買い出しをすることはできますが、最先端の流行り物を手に入れたり、多くのショップを回って確認することは難しいかもしれません。

 ネットで手配しにくい最先端のものが子育てに必要な場合は、デメリットと言えるかもしれません (○○店で限定発売の最先端スポーツ用品など)。

2-2.十分な小児医療を受けにくい

 続いて、田舎暮らしで最も心配なこととして、十分な小児医療を受けにくい、といったことが考えられます。

 地方の病院は、高齢者を対象とした医療整備は充実している一方で、人口の少ない小児医療の整備は進んでいないこともあります。

 例えば、リスクのある出産(早産など)をする場合には、数十km先の病院まで行かなければいけないことも考えられます。

 筆者が住んでいた田舎では、近くの病院では「風邪」や「予防接種」程度の医療が限界で、大きな治療が必要になると、数十km先の病院に、約1時間かけて移動しなければいけませんでした。

 子育ての終わった夫婦が、余生を楽しむ分には問題ないかもしれませんが、これから子育てをしていく夫婦にとっては、大きなデメリットと言えるかもしれません。

2-3.教育環境の整備が遅れやすい

 また、小児人口が少ないことによって、教育環境の整備が遅れやすいことも考えられます。

 例えば、外国人による英会話教育、アクティブラーニング(能動的な学習)の導入、タブレットの導入といった環境整備が遅れる可能性があります。

 但し、これらの環境整備の速さは、各学校や教育委員会の方針によっても異なると考えられる為、一概に「田舎=遅い」というわけではないでしょう。

 自分たちが暮らしている (又は暮らそうとしている)田舎の教育環境について、しっかり把握しておけば、このデメリットを受ける可能性は下げることができると考えられます。

2-4.公共機関の支援を受けにくい

 続いて、公共機関や行政の支援を受けにくい、ということも考えられます。

 例えば、地域コミュニティの場にもなる「地域子育て支援拠点事業」が少なく、同じような親子と繋がりにくい、といったことが考えられます。

 その他、保育園や幼稚園といった施設が遠く、利用したくても利用しにくい、といったことも考えられます。

 子育てに限らず、電車やバスが通っていない(又は本数が少ない)、消防署や警察署まで遠い、道路が十分に整備されていない、といったことも考えられます。

2-5.井の中の蛙になりやすい

 また、小児世代の少ない田舎に住む場合、井の中の蛙になってしまう可能性も考えられます。

 本来は、学業やスポーツのどちらも競争相手は自分自身かもしれませんが、ライバルが少ないことで、そのモチベーションを高く保ちにくいことは考えられます。

 のびのびと育てたい場合は問題ないかもしれませんが、子ども自身が高みを目指したいと考えている場合は、世の中を広く知るような機会を与えることが大切かもしれません。

2-6.高等教育を受けにくい

 これまでの延長線上として、高等教育を受けにくい、ということが考えられます。

 限界集落の田舎や山奥に、高等学校や大学はほとんどありません。また、近隣の高等教育や大学に通う為の交通手段もほとんどない場合があります。

 必然的に、下宿先を見つけて、親元を離れて勉強しなければいけないことが多くなります。

 まだまだ幼い高校生(15~18歳)を、全く知らない都会に住まわせる可能性もあり、最適な子育て環境を確保できるとは言いにくいかもしれません。

 但し、筆者自身も高校時代から寮生活を行い、親元を離れて過ごしていました。寮生活であれば、同じ境遇の同級生も多く、親が考えているほど、不安なことは無いかもしれません。

2-7.夢を描きにくい環境になりやすい

 前述した背景から、「スポーツ選手」や「研究者」といった、他者との競争が必要な夢を描きにくい可能性も考えられます。

 実際には、田舎出身のスポーツ選手や研究者の方も多数いますし、都会は都会でライバルとの競争に疲れてリタイアしてしまう場合も考えられます。その為、「田舎=夢を叶えにくい」というわけではないと考えられます。

 しかし、価値観を形成する幼少時代に、自然と関わる場面が多く、他者と競争しながら競技をする場面は少なく、その「夢を描きにくい(夢になりにくい)」ということは考えられます。

 例えば、全校生徒数が10人未満の学校で、野球選手になりたい!という夢を描く(野球選手が夢になる)のは、難しいと考えられます。

 反対に、田舎ならではの夢を描きやすいといった可能性はありますが、視野が狭くならないように(自然ばかりに目がいかないように)、工夫が必要かもしれません。

2-8.面倒な人付き合いでも断りにくい

 そして、田舎の集落では、人付き合いが欠かせない為、面倒な人付き合いでも、ある程度は断らずに参加する必要があります。

 そういった人付き合いを含めて、田舎に暮らしたいと考えている場合は問題ないかもしれませんが、「人付き合いを避けて田舎に」と考えている人は危険かもしれません。

 田舎によっては、関わりがほとんど無くなっている場合もある為、新たに引っ越しを考えている場合は、やはり下見(仮移住)をしておく方が無難だと考えられます。

3.田舎暮らしは本当に子育てに最適か?

 最後に、本記事で紹介した通り、田舎暮らしにはメリットもデメリットもあります。

 「最先端の技術を活かしながら、バリバリ競争社会で活躍できる子に育てたい」と考えている場合には、田舎暮らしは最適ではないでしょうし、「のびのびと自然に触れあって子育てしたい」と考えている場合には、田舎暮らしの方が都会よりも適しているでしょう。

 つまり、どのような子育てをしたいか、どのような田舎に住むか、といったことで、田舎暮らしが子育てに最適かどうかは、変わってくると考えられます。

 ただ、多くの場合は、「親自身が田舎暮らしに憧れている」のではないでしょうか。

 最適な子育て環境という定義は、家庭によって異なると考えられますが、その大前提として「親自身が幸せに生きている」ことが必要ではないでしょうか。

 田舎暮らしに切り替えることで、「親自身が幸せに暮らせる」のであれば、それは「最適な子育て環境を作っている」とも言えます。

 幼少期と青年期に分けて移住する等、田舎や都市部に固執せず、常に変化していくことが最適な子育て環境作りなのかもしれません。