育児休業は男性でも取れる!給付金や夫婦一緒の取得に関する制度まで

 環境省の環境大臣が育児休業を取得するなど、男性の育児休業が徐々に社会に浸透し始めています。

 2021年時点では、男性の育児休業と言えば短期間 (数日間)のイメージが強いですが、育児休業が取得できる期間に男女差はありません。

 本記事では、男性で社内初の長期育児休業(1年間)を取得した筆者の経験を基に、育児休業に関する法律や制度について紹介します。

 なお、本記事に記載している情報は、筆者が休業時に参考とした「厚生労働省の育児休業法関連資料」を基に記載しています。

1.育児休業に関する制度とは

 意外と勘違いしやすいですが、育児休業制度は「育児休業法という法律」で定められています。

 会社毎に上乗せ制度はありますが、育児休業制度は全ての労働者(自営業等は除く)が利用することができます。

 また、政府は以下の背景(目的)から、男性の育児休業を積極的に推奨しています。

  • 【男性の育児休業取得を推進する背景】※厚生労働省資料より
  • ・子育て期の父母がともに子育ての喜びを感じ、そのやりがいや充実感を持って、働き続けることができる社会の実現を目指す
  • ・共働き世帯が増加する中においても、日本の男性の家事・育児時間は、先進諸国と比べて短い状況である
  • ・子育てや家事の負担が女性に集中し、継続就業が困難になるとともに、第二子以降の出産意欲を低下させ、少子化の原因になっている(可能性がある)
  • ・生後初期の子育てに関わることで、父親としての重要な自覚を持たせる機会とする
  • ・男性の家事育児参加により、女性の子育て負担を軽減し、継続就業や円滑な職場復帰を図る

 SNS等では、「家族と接する時間を多く持てる」といった個人に焦点をあてたメリットが挙げられることが多いですが、実際には、社会的な課題(労働力低下や少子化、男女共同参画)を解決する為のひとつの手段となっています。

 よって、育児休業を取得しようとする方は、これらの政府の目的を理解し、休業中の育児だけでなく、休業前後における働き方や家事育児の分担について、夫婦でしっかりと考え、共有しておくことが望ましいでしょう。

1-1.育児休業法で定められた制度の概要

1-1-1.育児休業の対象者

 育児休業法における育児休業の対象者は、「原則として1歳に満たない子を養育する男女労働者」です。

 但し、契約期間の短い労働者(1年未満)や日雇いの労働者の場合は、対象外となる可能性があります。

1-1-2.育児休業の申請方法

 育児休業を取得する際の申請の主な流れは、「取得予定者→事業主→取得予定者」となっています。

 事業主から育児休業について案内がある可能性は低い為、基本的には労働者から申し出る必要があります。

 申請媒体については、就業規則に定められていれば、就業規則に従い、定められていない場合は、会社側(上司等)に事前相談したうえで、ファックスや電子メール等で申請することが可能です。

 なお、口頭連絡では、トラブル時に証拠がなく不利になってしまう懸念がある為、書面又は電子メール等の証拠に残る方法で申請するように注意しましょう。

1-1-3.育児休業の申請内容

 育児休業を申請する際には、最低でも、以下(1)~(4)について記載する必要があります。

 また、特別な事情(例えば早産、配偶者の死亡など)があり、原則とされる取得期間(1年間)を延長する場合や、期間内に再度育児休業を取得する場合には、その理由(事実)についても記載しなければいけません。

  • 【育児休業を申請する際に必ず明らかにする事項】
  • (1) 申出の年月日
  • (2) 労働者(自分)の氏名
  • (3) 申出に係る子の氏名、生年月日(又は出産予定者の氏名及び出産予定日)及び労働者との続柄等
  • (4) 休業を開始しようとする年月日及び休業を終了しようとする年月日

 なお、社内規則や様式が無い場合は、「厚生労働省:育児・介護休業法に関する規則の規定例・様式例 P.16」を参考にすると良いでしょう。

1-1-4.育児休業の申請期限

 申請の期間については、原則として育児休業を開始しようとする日の「1か月前まで」に申請しなければいけません。

 但し、特別な事情(例えば早産や配偶者の死亡、保育所等における保育不可等)がある場合には、1週間前に申請することが必要です(最長1週間であり事業者が認めれば翌日からでも休業可能です)。

1-1-5.その他

 厚生労働省の指針によって、「育児休業に関する制度等を就業規則等に記載すること」が事業主に求められている為、多くの企業で育児休業に関する規則が就業規則等に記載されています。

 就業規則を一度も確認していない場合、一度確認してみると良いでしょう。

1-1-6.育児休業制度の概要まとめ

 育児休業制度に関する概要は以上です。

 計画的に育児休業を取得しようとする男性については、以下を理解しておくと良いでしょう。

  • 【育児休業制度の概要】
  • ・育児休業は、1歳に満たない子を養育する男女労働者が取得できる(両親一緒に取得や配偶者が専業主婦(夫)でも取得可能)
  • ・育児休業に関する規則は、原則として社内の就業規則等で定められている(就業規則等で定めることが法律で求められている)
  • ・育児休業の申請方法は、原則として社内の就業規則に従う
  • ・育児休業の申請内容は、上記事項(1)~(4)を必ず明記する(但し社内規則がある場合はそれに従う)
  • ・育児休業の申請期限は、原則として育児休業を開始しようとする日の1か月前まで(但し社内規則がある場合はそれに従う)

1-2.育児休業中を支える給付金制度概要

 こちらも意外と勘違いしやすいですが、育児休業中の収入源となる育児休業給付金は、会社からではなく国(雇用保険)から支給されます。

 一部の会社では、育児休業に対して奨励金や祝い金などの制度を整備している場合もありますが、これらは法律で定められているものではない為、休業中は、無給となることが一般的です。

 その為、実際に育児休業中の収入を支えるのは、育児休業給付金制度です(原則、収入が一定以下となった場合に支給されます)。

 その育児休業給付金に関する概要は、以下の通りです。

  • 【育児休業給付金制度の概要】
  • ・受給対象者は、原則として育児休業を取得する労働者(雇用される者であり自営業等は除く)
  • ・受給資格は、原則として雇用保険の被保険者期間が過去2年間に12か月以上あること(但し有期契約労働者であって1年以内に雇用契約が切れることが明らかな場合は除く)
  • ・受給申請は、原則として事業主(会社)を経由して管轄の労働局にて行う(事業主⇒本人⇒事業主⇒労働局)。
  • ・受給期間は、原則として休業開始日から休業終了日まで(但し、法律で定められた休業期間であり、会社の独自規則によって上乗せされた期間は除く)
  • ・受給金額は、休業開始日から6か月までは「休業前6か月の平均月額×67%」、休業開始日から6か月以降は「同×50%」
  • ・休業中は、社会保険料や所得税が免除される為、実質は「休業前6か月の平均手取り額×80%」程度となる
  • ・育児休業中に、その他収入(副業など)がある場合は、受給金額が減額される

 2021年1月時点では、0~3歳未満まで児童手当が15000円支給される(年収960万円以上の場合は5000円)ので、実質、最初の6か月間は「休業前の手取り額×90%」近くまで収入が支えられることになります。

1-3.夫婦一緒の取得で優遇される制度(パパママ育休プラス)

両親ともに育児休業する場合の特例として、「パパ・ママ育休プラス」という優遇措置があります。

 具体的には、従来の育児休業は「原則1歳に満たない子」を対象としていますが、この年齢が「原則1歳2か月」まで延長されます。

 この特例を適用する為には、夫婦ともに育児休業を取得する必要があります(以下の条件内であれば、同期間に連続して取得する必要はありません)。

  • 【パパ・ママ育休プラスの条件】
  • (1) 夫婦(事実婚等を含む)のいずれかが、子が1歳に到達する日以前に育児休業していること
  • (2) 新たに休業しようとする者の休業開始予定日が子の1歳の誕生日以前であること(子が1歳に到達する日以前に取得していれば連続していなくても良い)
  • (3) 新たに休業しようとする者の休業開始予定日が、配偶者の休業初日以降であること
  • ※但し、1人当たりの育児休業取得可能期間は原則1年間で変わらない

 少し分かりにくいので、特例が適用される参考例と適用されない参考例を、以下に記載します。

  • 【パパ・ママ育休プラスが適用される参考例】
  • ・産後初期(2か月間等)に夫婦二人で休業し、母親は連続して1年間休業、父親は産後初期2か月間と母親復職後の2か月間を休業するケース(特に重要な生後初期と妻の復職時に夫が休業して支えるケース)
  • ※父親2回目取得時に母親の休業期間と重複することも可能。母親の休業期間や父親の休業期間が連続している必要なし。

  • 【パパ・ママ育休プラスが適用されない参考例】
  • ・生後1年間に母親一人が休業し、母親の復職後(1歳到達以降)に父親が休業するケース
  • ※父親が1歳の誕生日以前に休業(又はパパ休暇)していない為、上記(2)に該当せず、適用されません
  • ・生後2か月間に母親一人が休業し、復職したが両立困難で2か月後に再度休業し、その後さらに父親が休業するケース
  • ※この場合、父親はパパママ育休プラスが適用されますが、母親は上記(3)に該当せず、適用されません

 パパ・ママ育休プラスの特例が適用されない一番の要因は、上記(3)「配偶者の休業初日以降であること」に該当しにくいことです。

 その為、夫婦の仕事と育児の両立を考えている家庭においては、生後初期に夫婦一緒に(同時に)育児休業を取得しておくことで、特例の制限に引っかかることなく、パパママ育休プラスを適用できる可能性を上げることができます。

 但し、夫婦二人ともが1年2か月間連続して取得できるわけではないことに、注意しましょう(1人当たり原則1年は変わりません)。

 また、育児休業給付金は各々の休業期間で計算される為、母親が6か月間休業後に父親が6か月間休業する場合は、給付金は1年間にわたって、67%受給することができます(前半は母親の平均月額×67%、後半は父親の平均月額×67%)。

 但し、母親が1年間休業する場合は、後半の6か月間は「母親の平均月額×50%+父親の平均月額×67%」を受給することになります。

1-4.育児制度を保護する措置(ハラスメント防止)

 育児制度利用を理由とするハラスメント(不利益な取扱い)は、法律によって禁止されています。

 単に不当な人事異動や退職勧告を禁じていることは当然ながら、上司や同僚から就業環境を害されるような言動を受けること(育児休業を理由とするハラスメント)まで禁止されています。

 ハラスメントの典型例としては、以下のようなものがあります。

  • 【育児制度利用を理由とするハラスメントの典型例】
  • ・「休業(や短時間勤務)をするなら辞めてほしい」といった退職を示唆(連想)させる言動を行うこと
  • ・「周りの業務負担が大きくて困る」といった間接的に制度利用を妨げる言動を行うこと
  • ・本人の意に反して、従来とは異なる軽易な業務や雑務ばかりに転換させること
  • ・事業主や同僚の都合で、制度利用を諦めさせる(短縮させる)ような言動を行うこと
  • ・「入社早々に何度も制度利用するなんて図々しい」といった制度利用や継続就業を妨げる言動を行うこと
  • ・「忙しい時期に妊娠出産しないでほしい」といった継続就業を妨げる言動を行うこと

 特に、コンプライアンス意識の高い職場においても、本人の体調などを気遣い、責任の重い業務から外すといった「本人のキャリアに不利益な取扱い」が発生することがあります。

 "本人の意に反して"という部分が重要になりますので、従来通りの業務をしたいにも関わらず、こういった不利益な取扱いを受けそうになった場合は、上司や同僚にしっかりとその意思を伝えることが大切です。

 なお、業務上、必要な配慮(業務調整や休暇日の調整)に関しては、本人と相談することが必要であり、調整を強要(執拗に確認するなど間接的な強要を含む)されない場合は、即ハラスメントに該当するものではありません。

 育児に関わる制度利用は、決してあなた個人のわがままではなく、社会的な課題解決の一つである為、誇りをもって周囲に感謝しながら接するようにすると良いでしょう。

 また、万が一嫌がらせを受けた場合には、「法律だから嫌がらせをしないで」という態度を押し付けるのではなく、「仕事と育児を両立しながら一緒に働きたいから」という気持ちを伝えることが、何よりも大切です。

 但し、無理に自分一人で抱え込む必要はなく、自分や会社での解決が難しいと思われた場合には、「ハラスメント相談窓口:都道府県労働局」に相談することができます。

 労働局に介入してもらわない場合でも、「こういった扱いを受けている」と相談するだけでも問題ありません。

2.男性も育児休業する時代に変わりつつある

 最後になりますが、いまや育児休業は、女性だけの権利ではありません。

 男性も同様の権利を持っており、基本的には女性と同じ流れで育児休業することができます(手続きにもほとんど違いはありません)。

 生後初期の育児に関わることで、父親としての自覚を育み、夫婦でともに育児の喜びや充実感を経験することができます。

 将来に渡り、夫婦関係を良好に保ち、精神的にも身体的にも健康的な生活を送るためにも、男性の育児参加は欠かせません。

 会社への迷惑を考えるあまり、短期の育児休業で諦めるのではなく、少しでも長期取得し、夫婦関係や育児に向き合うことを検討いただければ幸いです。