【仕事と育児の両立】短時間勤務や所定外労働の制限について!
近年、男性の育児休業が注目を浴びており、その取得率は徐々に上昇しています(令和元年度:7.48%「厚生労働省:雇用均等基本調査」より)。
しかし、短時間勤務や所定外労働の制限を検討する男性は、まだまだ多くありません。
SNS等においても育児休業の事例はちらほら見られるものの、短時間勤務等の事例はほとんど見られません。
そこで、本記事では、「短時間勤務」と「所定外労働の制限」について、制度対象者とその利用状況、メリット・デメリットを紹介しています。
1.短時間勤務と所定外労働の制限について
育児はたった1年間では終わりません。
育児休業のある生後1年間だけでなく、育児休業を終えた生後2年目以降も夫婦の協力が必要であることは言うまでもありません。
夫婦でしっかりと協力して育児をするためには、夫婦が共に「短時間勤務」や「所定外労働の制限」について知り、余裕をもって活用していくことが必要になるはずです。
そこで、まずは「短時間勤務」と「所定外労働の制限」の制度自体について、詳しく紹介します。
なお、今回紹介する制度は、全て育児休業法によって定められているため、会社に制度が整備されていない場合でも、法律の条件に該当する全ての労働者(一部条件を除く)が利用することができます。
1-1.短時間勤務の対象とその利用状況
厚生労働省が公開している「育児休業法のあらまし」によると、短時間勤務は以下の通り定められています。
○3歳に満たない子を養育する労働者(日々雇用を除く)であって育児休業をしていないもの(1日の所定労働時間が6時間以下である労働者を除く)に関して、1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含む措置を講ずる義務
ただし、労使協定で以下の労働者のうち、所定労働時間の短縮措置を講じないものとして定められた労働者は対象外
- 1.勤続1年未満の労働者
- 2.週の所定労働日数が2日以下の労働者
- 3.業務の性質又は業務の実施体制に照らして、所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
〇上記3の労働者について、所定労働時間の短縮措置を講じないこととするときは、当該労働者について次の措置のいずれかを講ずる義務
「厚生労働省:育児休業法のあらまし」より
- ・育児休業に関する制度に準ずる措置
- ・フレックスタイム制
- ・始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ
- ・事業所内保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
多少の誤解を覚悟のうえで、要約すれば「3歳未満の子どもを育てるほとんどの労働者が利用できる」制度と言えます。
続いて、本制度の導入状況、制度内容、その利用率について紹介します(厚生労働省:令和元年度雇用均等基本調査より)。
- 【短時間勤務制度の導入状況】
- ・全事業所の67.4%で導入されている
- ※導入されていない場合でも制度利用は可能ですが制度利用によって短縮された時間の給与の取り決めなどがないため、制度利用に少し労力がかかる可能性があります。
- 【短時間勤務の各企業の上乗せ制度】
- ・制度を導入している事業所の内、44.4%が3歳以上の期間延長を認めている(上限は事業所によって異なる)
- ※法律では3歳未満までです
- 【短時間勤務制度の利用状況】
- ・制度を導入している事業所の内、17.7%の事業所で利用者がいる
- ・制度利用のあった事業所の内、91.9%が女性のみ(男性の利用なし)
上記利用状況の通り、男性の利用はほとんどありません。
但し、平成27年度には98.2%が女性のみであったことを見ると、3年で6%近く男性の利用率が上がっています。
今後も、さらに利用率は上がっていくと考えられるため、社内初だからといって、制度利用を諦める必要はないでしょう。
1-2.所定外労働の制限の対象とその利用状況
厚生労働省が公開している「育児休業法のあらまし」では、所定外労働の制限について以下の通り定められています。
○3歳に満たない子を養育する労働者がその子を養育するために請求した場合においては、事業主は所定労働時間を超えて労働させてはならない
○3歳に満たない子を養育する労働者(日々雇用を除く)
○労使協定で対象外にできる労働者
・勤続1年未満の労働者
・週の所定労働日数が2日以下の労働者
○1回の請求につき1か月以上1年以内の期間
○請求できる回数に制限なし
○開始の日の1か月前までに請求
○事業の正常な運営を妨げる場合は、事業主は請求を拒める
「厚生労働省:育児休業法のあらまし」より
こちらも多少の誤解を恐れずに、要約すれば「3歳未満の子どもを育てるほとんどの労働者が利用できる」制度と言えます。
続いて、本制度の導入状況、制度内容、その利用率について紹介します(厚生労働省:令和元年度雇用均等基本調査より)。
- 【所定外労働制限の導入状況】
- ・全事業所の60.2%で導入されている
- ※導入されていない場合でも制度利用は可能ですが制度によって短縮された時間の給与などの取り決めがないため、制度利用に少し労力がかかる可能性があります。
- 【所定外労働制限の各事業所上乗せ制度】
- ・制度を導入している事業所の内、53.3%が3歳以上の期間延長を認めている
- ※法律では3歳未満までです
- 【所定外労働制限の利用状況】
- ・制度を導入している事業所の内、7.7%の事業所で利用者がいる
- ・制度利用のあった事業所の内、89.7%が女性のみ(男性の利用なし)
これらのデータから、短時間勤務や所定外労働制限の制度が導入されていても、それらの制度を利用しやすい環境はできていないことが推測できます。
但し、こちらも短時間勤務と同様に、男性の利用率が上がってきている状況であるため、例え社内初だとしても制度利用を諦める必要はないと言えそうです。
2.男性の短時間勤務と所定外労働のメリットについて
続いて、男性が短時間勤務と所定外労働制限を利用するメリットについて、紹介します。
2-1.繁忙期でも安定した生活を送ることができる
仕事をしているとどうしても予期せぬ業務により、残業が発生することも少なくありません。
また、年度末などの繁忙期には、慢性的に残業が多くなる職種もあるでしょう。
そういった場合に、保育園の送り迎えができなくなってしまったり、と配偶者にそれらの負荷を全て背負わせてしまうことがあります。
本制度を利用していれば、そういった残業等を回避することができ、安定した生活リズムで生活することができます。
安定した生活リズムになれば、生活に慣れやすく、家事や育児の負担(ストレス)も軽減されやすいと考えられます。
2-2.夫婦対等な育児参加ができる
前述と少し関係しますが、共働きで妻だけが短時間勤務などを利用をしていた場合、夫の繁忙期には、夫婦対等な育児参加が難しくなります。
専業主婦の場合でも、夫が育児に関わる時間が短くなると、徐々に子どもの教育などに対して、意見を言いにくくなることも考えられます。
本制度を利用すれば、少なくとも"育児時間"という観点では、夫婦対等な育児環境を整えやすくなります。
2-3.妻の社会進出を支えられる
また、夫が短時間勤務などの制度を利用していると、妻が継続就業や再就職を希望している場合に、有利になることが挙げられます。
一般的に、乳幼児を養育する女性は、子どもの体調不良などで急な勤務変更が発生しやすいと考えられてしまうため、再就職時に不利になる場合があります(不利な扱いは法律で禁止されているものの…)。
本制度を利用していれば、「夫が対応できます」と言えるため、継続就業や再就職もしやすくなると考えられます。
妻が社会進出することで、夫の経済的な負担を軽くするメリットも得られます。
2-4.ワンオペ育児のリスクが下がる
意外と見落としがちなリスクとして、「一人で見ている」ということがあります。
「我が家に限ってそんなことはない」と思う気持ちも分かりますが、妻が急な体調不良で意識を失ってしまう可能性も否定できません。
乳幼児であれば、命に関わる可能性もありますし、妻自身を助ける人も居ません。
また、最近では、夫が妻の育児放棄に気付かず、最悪の事態に繋がっているケースも少なくありません。
本制度を利用していても、リスクが完全になくなるわけではありませんが、リスクを下げることはできます。
発生可能性はそこまで高くないかもしれませんが、最悪の事態の影響を踏まえれば、少しでもリスクが下がることはメリットのひとつと言えるでしょう。
3.男性の短時間勤務と所定外労働のデメリットについて
続いて、男性が短時間勤務と所定外労働制限を利用するデメリットについて、紹介します。
3-1.会社や上司の理解を得るのに労力がかかる
仕事と子育ての両立支援に相当積極的な会社でない限り、理解を得るのに労力がかかります。
必要な時に必要な人が制度利用できる体制が求められていますが、2021年時点ではその体制が整っている企業はごく少数です。
しっかりと理解を得るには、相当根回しが必要になると考えられます。
制度利用による直接的なデメリットではありませんが、労力がかかるという点では、デメリットのひとつと言えるでしょう。
3-2.不利益な取扱いを受けるリスクがある
前述と似ていますが、しっかりと理解が得られなかった場合、「早く帰る人が居るから職場の負担が多い」と執拗に言われるなど、間接的な嫌がらせを受けるリスクが考えられます。
さすがに現代において、退職勧告といった直接的な嫌がらせをされる可能性は低いと考えられますが、上司や同僚の間接的な嫌がらせのリスクは、十分に考えられます(法律で禁止されているものの…)。
なお、令和元年度雇用均等基本調査によると、全企業の「75.7%」が、これらハラスメント防止に取り組んでいますが、裏を返せば、約1/4の企業は、これらハラスメント防止に取り組んでいない状況です(但し5000人以上の企業では100%取り組んでいます)。
また、少し古いデータですが、平成29年度の調査結果によると、育児関連の相談件数は「53,865件」となっています(国の相談窓口に相談のあった件数)。
そのうちの約9%程度が、不利益な取扱い又はハラスメントに関することですので、法律で禁止されているとはいえ、全くリスクがないとは言えないでしょう。
間接的な嫌がらせ等は、コンプライアンス室や相談窓口に言えば、解決してくれるかもしれませんが、自身の気持ちとして、継続就業が難しくなる可能性も考えられます。
3-3.業務を通じてキャリアアップする機会が減る
現在の業務に満足しており、さらに経験を積んでキャリアアップしたいと考えている場合、必然的にキャリアを積みにくくなることも、デメリットの一つと言えます。
どうしても激務になりやすい海外派遣や、立ち上げメンバにはなりにくいため、そういった経験は積みにくくなるかもしれません。
確かに、業務を通じてスキルアップすることは難しいかもしれませんが、育児を通じてマネジメント能力を強化することはできますし、空いた時間に自己研鑽に努めることもできます。
また、キャリアについては、善良な会社かつあなたを評価してくれる企業であれば、制度利用後にバリバリ活躍してもらう人材とするために、制度利用前と変わらずキャリア経験を積ましてくれる可能性もあります。
いずれにしても、上司に相談してみなければ分からないため、一度探りを入れてみると良いかもしれません。
4.育児制度の必要性に着目して検討しよう
最後になりましたが、今回紹介した制度の利用率は、育児休業と同様に上昇傾向にあります。
しかしながら、女性の家事育児の合計時間はほとんど変わっておらず、女性が社会で活躍できる環境が整っているとは言えません。
本記事をご覧になった方は、ぜひ「制度利用のイメージはどうか」や「制度利用をどうするか」といった周囲環境で判断するのではなく、家庭や社会の未来のために、「自分たちに制度利用は必要か」という前向きな視点で、検討していただければと思います。