【男性育休】妻の復職を支えると生涯賃金が約2億円も増える!?

 イクメン(育児をする男性)という言葉がうまれ、小泉環境大臣が育児休業を取得したことで注目を浴びている男性の育児休業ですが、そのメリットは家族との時間が増えるだけではありません。

 記事内で詳しく触れますが、「ニッスイ基礎研究所:生涯所得の推計」によると、妻の継続就業を支えることで、生涯賃金に最大2億円近くもの賃金差が出るとされています。

 世帯賃金が2億円も増加するのであれば、男性がつらい残業や責務に耐えながら、無理に出世して所得を増やす必要が無くなり、夫婦の働き方(家庭の過ごし方)にも余裕ができます。

本記事では、妊娠・出産後の女性の復職を支えることによる金銭的なメリットとその方法について、紹介します。

1.妊娠・出産による女性を取り巻く環境

 まずはじめに、「ニッスイ基礎研究所:生涯所得の推計」及び「内閣府:仕事と生活の調和レポート2019」を基に、妊娠・出産による女性の変化について紹介します。

1-1.妊娠・出産後の女性の働き方の変化

「内閣府:仕事と生活の調和レポート2019」によると、第1子出産を機に退職する人は「46.9%」となっています。

 また、出産を機に退職した主な理由としては、「家事・育児により時間を割くために辞めた」「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた (就業を継続するための制度がなかった場合を含む)」が挙げられており、「妊娠・出産や育児を機に不利益な取り扱い (解雇・減給・降格・不利益な配置転換、契約を更新しないなど)を受けた」ことを理由とするものより高い傾向となっています。

 さらに、2018年度のデータとなりますが、出産を機に退職した女性の内「29.9%」の女性が5年以内に再就職しています。

 各年齢における女性の労働力率が、M字曲線となっている (25~29歳をピークに35~39歳で下がり、45~49歳で2度目のピークとなる)ことからも、出産を機に一度退職し、再就職する女性が多くなっていることが分かります (男性の労働力率にこの傾向はありません)。

1-2.女性の働き方による生涯賃金の変化

 しかし、「ニッスイ基礎研究所:生涯所得の推計」によると、女性の働き方別の生涯賃金推計は、以下の通りとされています。

 女性が大学卒業後、同一企業で働き続けた場合(ケースA)の生涯賃金は2億3,660万円、退職金(2,156万円)を合わせると、生涯所得は2億5,816万円となる。

 一方、大学卒業後、同一企業で働き続ける女性が、二人の子を出産・育休を2回利用し、フルタイムで復職した場合(ケースA-A)の生涯賃金は2億1,152万円で、退職金(1,856万円)を合わせた生涯所得は2億3,008万円である(ケースAより△2,808万円、△10.9%)。

(中略)

 また、同様に、二人の子を出産・育休を2回利用し、第2子が3歳未満まで短時間勤務をした場合の生涯賃金は2億214万円で、退職金(1,856万円)を合わせた生涯所得は2億2,070万円である(ケースAより△3,748万円、△14.5%)。第2子が小学校入学前まで短時間勤務をした場合の生涯賃金は1億9,378万円で、退職金(1,856万円)を合わせた生涯所得は2億1,234万円である(ケースAより△4,582万円、△17.7%)。

「ニッスイ基礎研究所:生涯所得の推計」より

 ここで注目すべきは、産休・育休を2回利用したうえで、末子が小学校就学前まで短時間勤務を利用したとしても、生涯賃金は2億円を超えるという点です (正規雇用の場合)。

 それに対して、出産を機に退職し、小学校就学後から非正規(又はパート)社員として再就職した場合の生涯賃金は1億円を下回ります。

 一方、第1子出産後に退職し、第2子小学校入学時にフルタイムの非正規雇用者として再就職した場合の生涯賃金は9,332万円で、退職金(338万円)を合わせた生涯所得は9,670万円である(ケースAより△1億6,146万円、△62.5%)。また、同様に、日本で昔から多い、パートで再就職した場合の生涯賃金は5,809万円で、退職金(338万円)を合わせた生涯所得は6,147万円である(ケースAより△1億9,669万円、△76.2%)。

「ニッスイ基礎研究所:生涯所得の推計」より

 つまり、出産を機に退職して再就職しなければ、約2億円の損失となり、出産を機に正規社員を退職して非正規(又はパート)社員として再就職した場合は、約1億円以上の損失となることが分かります。

 それでも半数近くの女性が「一旦退職」を選択してしまうのは、やはり「仕事と育児の両立の難しさ」が立ちはだかっている為です。

 いくら短時間勤務を利用したところで、職務内容が変わらなければ精神的な負担は大きいままですし、職務内容が軽易な業務となれば、やりがいを感じにくくなることも少なくないのかもしれません。

 しかし、せっかく努力して就活をして正規雇用を得たにも関わらず、安易にこの1~2億円を手放すことはもったいないと言えそうです。

2.夫にできる妻の働き方を支える方法

 上記データより、出産を機に退職する女性 (全体の約50%)の内、子育てが落ち着いてから再就職をしている女性 (全体の約15%)は、「一旦退職せず、育児関連制度を利用しながら継続就業」した方が、金銭面では圧倒的に有利だと考えられます。

 心理的には、現在の勤務先で働き続けることになる為、「労働力が下がった」「業務レベルが下がった」といったネガティブな印象を持たれる懸念はありますし、幼い我が子を保育園に預けることに抵抗がある方も少なくありません。

 しかし、配偶者に万が一の不幸があった場合や、子どもが海外留学や私立入学を希望した場合には、金銭的に厳しい状況となる可能性もあります。

 金銭面で厳しくなってから(例えば40歳代などに)正規社員として働き始めることは難しいものです。

 非正規やパート雇用では、一般的に時間当たりの収入が下がる為、勤務時間も増え、お金も時間も無い、なんてことになる懸念もあります。

 夫がバリバリ働いて生涯賃金を+1~2億円増やすことは容易ではありませんが、夫が家事や育児に協力し、妻の継続就業を支えることで、世帯全体の生涯賃金を+1~2億円増やし、金銭的にも時間的にも、世帯を安定させることができます。

2-1.育児休業を利用して育児慣れする

 その為には、夫婦で育児休業を取得し、夫婦が同等のレベルで家事育児をできるようにしておくことが効果的です。

 例えば、妻の育休復帰時のみ夫が育児休業を取得(2か月程度)するという方法もありますが、生後初期の育児にほとんど関わっていない状態で、妻の復帰時のみ交代するというのは現実的ではありません。

 1年間丸々取得しない場合でも、パパママ育休プラス制度を利用して、生後0~2か月と妻の復帰時の生後12~14か月の時に、育児休業を利用するという方法の方が、現実的で負担も小さくなると考えられます (特に大変な時期になるので、会社の理解も得られやすいです)。

 なお、育児休業やパパママ育休プラスに関する制度は、本サイト「育児関連制度」をご覧いただくか、「厚生労働省:パパママ育休プラス」をご覧ください。

2-2.育児関連制度を利用して負荷分散する

 続いて、妻の継続就業を支える為には、短時間勤務や所定外労働制限の利用も欠かせません。

 育児休業は、原則1年(最長2年)で終了し、その後は保育園等を活用しながら、職場復帰しなければいけません。

 しかし、保育園は送り迎えの時間がある程度決まっている為、原則決まった時間に出退勤しなければいけませんし、子どもの体調が悪い場合には、原則預かってくれない為、急な勤務変更や途中抜け等も発生します。

 妻のキャリア等を考えれば、1歳~小学校就学まで連続して利用することが難しい場合も少なくない為、夫婦で交互(例えば半年毎に交代など)に利用するといったことが必要になることもあります。

 家事や育児負担を軽減するために、夫婦両方共が利用することも可能ですので、収入と働き方、家族との向き合い方等をもとに、使い分けると良いでしょう。

 なお、育児関連制度については、本サイト「育児関連制度」をご覧いただくか、「厚生労働省:育児休業法のあらまし」をご覧ください。

 また、子どもの体調不良等の場合に、半日単位 (令和3年1月以降は時間単位) で利用できる「子の看護休暇」制度があります。

 原則、無給となる為、フレックスタイム制や年次有給休暇が利用できる場合はそちらを利用した方が有利になりますが、どうしても上司の理解が得られない場合は、この制度を利用することで対応が可能です (年次有給休暇等と異なり、強制力が高い為)。

2-3.将来像と働き方を見直す

 そして、何よりも大切なことは、本記事で紹介した情報について夫婦で共有し、夫婦の将来像や働き方を見直すことです。

 近年では、「出世よりも家族や自分の時間を優先したい」「ほどほどに働きたい」という若者が増加していますが、実際の働き方は「バリバリキャリア人材」となっていることも少なくありません。

 配偶者の出産を機に、夫婦の将来像や働き方を見直し、必要であればより柔軟な働き方ができる職場に転勤(転職)したり、がっつり育児関連制度を利用して家族時間を増やすといった対応をしていくと良いでしょう。

3.男性の育児参加は生涯世帯所得と家族時間を増やす

 最後に、繰り返しになりますが、男性(会社員)がバリバリ働いて生涯賃金を1~2億円増やすことは困難ですが、男性が育児に参加して生涯賃金を1~2億円増やすことが可能です。

 妻の収入が安定すれば、夫の経済的な負担が下がりますし、残業が続いて家族と過ごす時間がないといったデメリットも軽減されます。

 幼い頃には、「温かい家庭を築きたい」なんて夢を抱く人は少なくありませんが、将来の金銭的な不安等もあり、温かい家庭を目指して働き方を見直している人は多くありません。

 ぜひ、出産を機に仕事を辞めてしまうのではなく、夫の育児協力を仰ぎ、仕事と家庭への向き合い方を見直してみてはいかがでしょうか。