【最新】男性の育休(産休)義務化で社会はどう変わる?企業側の対策は?

 2020年10月現在、男性の育児休業 (産後休暇)を義務化する検討が行われています。

 なお、少し前に「男性の育児休業を義務化してはどうか」という議論が出たことで、育休義務化という情報が先行していますが、2020年10月現在では、「育児制度を周知、推奨することを義務化する」という方向で検討されています。

 そもそも個人に対して育休を義務化すれば、個人(家庭内)の多様な働き方が阻害されてしまうことになる為、それは望ましくありません。

 あくまで企業に対して育休を推進するように義務化する、という位置付けとなっていることに注意しましょう。

 さて、本題に戻り、少子高齢化により働き手の減少が指摘される中で、何故、男性の育児休業(産後休暇)の推進を義務化する必要があるのか、育休"義務化"が先行して話題となったのか、政府の意図や効果について、本記事で紹介したいと思います。

1.仕事と育児の両立を取り巻く状況

 まずはじめに、男性の育児休業の義務化について理解するために、その上流にある「仕事と育児の両立」を取り巻く現状について、紹介します。

1-1.男性の育児休業取得率が極端に低い

「厚生労働省:令和元年度 雇用均等基本調査」によれば、男性の育児休業取得率は7.48%となっています。

男性の育児休業取得率の推移

 女性の同取得率が、80%以上で推移していることを踏まえれば、非常に低い水準にあることが分かります。

女性の育児休業取得率の推移

 また、諸外国と比較しても日本の育児休業制度は非常に充実しているにも関わらず、その取得率は諸外国よりも低水準となっています。

1-2.日本の男性の育児時間が極端に少ない

「内閣府:平成30年度 少子化対策社会白書」によれば、男性の育児時間は49分となっています。

6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(1日当たり・国際比較)

 女性の同時間が、3時間45分であることを踏まえれば、非常に低い水準であることが分かります。

 また、諸外国と比較しても日本の男性の育児時間は極端に少なく、女性に家事育児負担が偏っていることが分かります。

 諸外国と比較して男性の長時間労働が多いことが、その要因として指摘されることも少なくありませんが、共働き世帯が増加している現代においては、日本の女性への家事育児負担の偏りは、明らかに異常な状態となっています。

 以下グラフは、「内閣府:令和2年度 男女共同参画白書」にて取り上げられており、男女別に見た生活時間を有償労働 (主に仕事など)と無償労働 (主に家事など)に分けた時の国際比較結果となっています。

 国際的に見ても、有償労働 (主に仕事等)の男女比率に大きな差が無いにも関わらず、日本だけ無償労働 (主に家事等)の男女比率が極端に女性に偏っていることが分かります。

男女別に見た生活時間(週全体平均)(1日当たり,国際比較)

1-3.日本の男性の労働時間が極端に多い

 但し、日本の男性就業者の労働時間が極端に多いことが問題であることは変わりません。

「内閣府:平成30年度 少子化対策社会白書」によれば、男性就業者の約3割近くが長時間労働をしていることが分かります。

男性就業者の長時間労働の割合(国際比較)

 長時間労働者の割合が多い原因についての明確なデータはありませんが、売上高の変動に関係なく (業務の多さに関係なく)恒常的に長時間労働が発生している傾向があることから、「残業代ありきの生活設計をしている」「職場の雰囲気が帰りづらい」「残業が習慣化している」といった指摘もあります。

1-4.固定的性別役割分担意識が根強く残っている

 また、日本では固定的性別役割分担意識も根強く残っています。

 固定的性別役割分担意識とは、「男は外で働き、女は家庭を守るべき」という性別によって役割や責任を分ける考え方のことです。

 1999年に「男女共同参画社会基本法」が成立して以降、こういった考え方は徐々に是正されていますが、国際的に見れば、まだまだその意識が根強く残っている状況です。

 なお、参考までに「男女共同参画社会基本法」には、以下のようなことが記載されています。

 男女共同参画社会とは、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」です。(男女共同参画社会基本法第2条)

出典:「内閣府:男女共同参画局」

 なお、国際データは少し古いものになりますが、「内閣府:平成19年度 男女共同参画白書」によれば、固定的性別役割分担意識に対して、「反対」「どちらかといえば反対」と回答した割合が、諸外国では「約8~9割」であるのに対して、日本では「約4~5割」と非常に低い水準となっています。

「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方に対する賛否(国際比較)

「内閣府:令和2年度 男女共同参画白書」によれば、約5~6割まで改善しているものの、国際的に見れば、まだまだ根強く残っていると言えます。

「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方に対する賛否(2020年最新)

1-5.日本の女性の出産後の継続就業率が低い

「内閣府:仕事と生活の調和レポート2018」によれば、半数以上の女性が第一子出産を機に、退職しています。

第一子出産前後の就業状況(女性)

 また、「厚生労働省:平成30年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」によれば、第一子出産を機に退職した女性の内、約30%は「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立が難しかった」と回答しています。

第一子出産時に退職した理由(女性)

 本来であれば、仕事を続けたい意思があるにも関わらず、育児負担の重さ (女性偏重)により、退職を余儀なくされているケースが多くあることが分かります。

 一旦退職することにより、キャリアを諦めざるを得なかったり、給与水準が極端に低下するといった個人としての影響は当然ながら、これまで育ててきた人材を失うことになる為、企業としても大きな損失となっています。

2.男性の育児休業(産後休暇)義務化の必要性

 これまでの統計データより、「男性の育児参加が必要」「女性の育児負担の軽減が必要」ということは明らかですが、何故、義務化する必要があるのか、までは分かりません。

 そこで、引き続き「何故、男性の育休"義務化"が必要なのか」ということについて、紹介します。

2-1.象徴的な取り組みとして関心度を上げるため

 男性の育休義務化が話題となるきっかけとなった「内閣府:選択する未来2.0(中間報告)」には、以下の通り記載されています。

 (性別役割分担意識の改革)~男性全員が育休を取得できる環境を~

…(中略)

 象徴的な取組として男性本人に対し、育児休業の取得の義務化や強力なインセンティブを与え、男性が全員取得する環境を目指すことも提案したい。

出典:「内閣府:選択する未来2.0(中間報告)」

 つまり、世の中では「少子化対策だー」「女性の育児負担軽減だー」等々、色々な理由が挙げられていますが、この報告内ではあくまで、「性別役割分担意識を改革するための象徴的取り組み」という位置付けとなっています。

 要するに、男女共同参画社会基本法にて、固定的性別役割分担 (男は外で働き、女は家庭を守るべきという考え方)が排除されてから、20年以上が経過しているにも関わらず、世の中の意識が全然変わってこない為、「話題になる取り組み」が必要ではないか、と提言されたものです。

 実際には、企業に対して「男性に育児休業制度を周知/推奨する義務」程度で検討されている為、育休義務化とは雲泥の差がありますが、今回の提言で育休義務化が話題となった為、既に提言の目的は果たしていると言えるのかもしれません。

2-2.対応が進まない中小企業の底上げをするため

 意外と知られていませんが、「男性に育児休業制度を周知する"努力"義務」は、既に法律によって定められています。

 しかしながら、「厚生労働省:平成30年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」によれば、配偶者の出産や育児、休業等について、「会社から何らかの働きかけがあったか」について、6割以上の男性が「特にない」と回答しています。

出産・育児や休業等について、会社から何らかの働きかけがあったか

 つまり、努力義務を課しているだけでは、多くの企業 (職場)で周知されていないことが分かります。

 この他、法律では、育児休業等に関する制度について、就業規則等で定めることも義務化されていますが、一部の中小企業では、これら規則類の整備すら追い付いていない場合もあり、こういった状況の底上げをするためだと考えられます。

2-3.義務化は女性の社会進出を支える為だけではない

 そして、これまでの統計データ等を踏まえれば、育休(周知)義務化は、女性の社会進出を支える為の施策ではなく、男性の働き方を改善する効果も見込まれていることが分かります。

 多くの社員がスムーズに育休を取得できるようにするためには、業務効率化や働き方改革が必須である為、働くすべての人の労働環境を改善することに繋がります。

「我が家は、専業主婦を希望していて妻も納得しているから関係ない」というわけではなく、男性や企業にも良い効果があることを覚えておきましょう。

3.男性の育児参加による社会の変化予測

 最後に、男性が育児参加することによって、社会に起きると考えられる変化 (予測)について紹介します。

 企業側の担当者は、これら変化に対応できるように、速やかに体制や業務改善を進めておくことが必要でしょう。

3-1.柔軟な働き方を求める人材が増加する

 性別役割分担意識 (男は外で働き、女は家庭を守るべきという考え方)が解消されると、現在よりもさらに多様な働き方を求める人が多くなるでしょう。

 政府は2025年までに男性育休取得率「30%」を目指しており、近い将来には、男性が育児に目を向ける社会が訪れる可能性が高いと考えられます。

 育児に目を向ける (育児休業を利用する)男性が増えれば、必然的に短時間勤務等の育児を理由とした労働制限の利用率も上がるでしょう。

 例えば、男女半々の職場であれば、約半数近く (女性8割、男性3割)の社員が所定外労働制限や短時間勤務等を利用する可能性も十分に考えられます。

 単に、短時間勤務等を求めるだけでなく、「がっつり働きたいけど幼稚園の送り迎えはする」といった人材が現れることも予想されますので、在宅勤務や中抜け、フレックスタイム等、柔軟な働き方を求める声がさらに高まると考えられます (既に多くの声がありますが…)。

3-2.柔軟な働き方を提供する企業が増加する

 そうなれば、男性育休に限らず、柔軟な働き方を用意する企業が増えてきます。

 2020年9月時点でも、「副業OK」「全社員テレワーク無制限」「育休取得100%」「事業所内保育あり」「勤務中に育児時間あり」等、先進的な働き方を提供している企業が多数あります。

 柔軟な働き方の提供は社会の流れである為、今後さらに増加していくことが予想されます。

3-3.柔軟な働き方が人材を確保する鍵となる

 また、近年では「仕事や給料はそこそこで、生活時間を大切にしたい」というワークライフバランスを重視した若者が増加している為、こういった先進的な (象徴的な)働き方をしている企業に多くの人材が集まりやすくなります。

 現代では、一昔前のように口コミ等を基に就職活動をするだけではなく、子育て企業のシンボルである「厚生労働省:くるみんマーク」や女性の活躍推進企業のシンボルである「厚生労働省:女性活躍推進企業」といった企業データベースが用意されている為、これらの対応が遅れている企業には、優秀な人材が集まらない時代になっていると言えます。

 優秀な人材ほど、こういった情報に敏感で、適切に判断して就職活動をする可能性が高く、柔軟な働き方の提供 (シンボルの獲得含む)は、人材確保の鍵となるでしょう。

3-4.柔軟な働き方が企業の競争力の鍵となる

 また、柔軟な働き方を提供する為には、規則類を整備するだけでなく、その規則類が適切に運用されるように、業務の仕組みや体制を見直さなければいけません。

 業務の仕組みを見直す為には、業務の可視化、属人的業務の解消、業務効率化が欠かせません。

 体制を見直す為には、最適な定員数の可視化、人材教育の最適化、人材の棚卸し等が欠かせません。

 そして、これらを見直すことによる効果は、「育休義務化への対応」にとどまらず、企業の競争力強化に繋がります。

 多様な働き方を整備し、業務や体制の最適化を進め、多様な働き方を実現することで、企業イメージが良くなり、優秀な人材が集まりやすくなることで、さらに業務や体制の最適化が進む、といったサイクルが回り始めると考えられます。

3-5.労働生産性の向上と女性起用が鍵となる

 最後に、先ほどの例で挙げれば、「業務の効率化」ができなければ、そもそも柔軟な働き方が実現できません。

 業務効率化に手を出しているうちに、大企業等は多様な働き方を実現し始め、優秀な人材をかき集めていきます。

 それでは、結局、中小企業に優秀な人材が集まらない現在の構図と変わりません。

 そこで、筆者としては、中小企業ならではの意思決定の早さを活かし、とにかく女性の働き方に配慮した仕組み(例:育休/短時間勤務の推進、子どもを連れて出勤可、在宅勤務可、等)を整備し、特定の職場内で実現することで、女性の競争率を上げる(求職者数を増やす)ことが最善策だと考えています。

 例えば、女性活躍推進企業データベースに載る「女性管理職の割合」や「育児休業取得率」といった目立つ項目について、まずは上位になることを目指すことで、"出産しても継続して働きたい"女性からの支持を得やすくなります。

 そして、優秀な(女性)人材が集まることで、業務や制度が改善されるサイクルが回り始めることが期待できる為、自転車操業をしているような企業は、これを機に女性活躍推進企業に変えてみると良いかもしれません。

4.少子化対策やジェンダーギャップ解消への効果

 最後に、繰り返しになりますが、男性の育児休業義務化が「少子化対策」や「ジェンダーギャップの解消」として取り上げられている場合が多くありますが、それらは、男性の育児参加が進むことで、自然と解消される効果でしかありません (義務化による効果ではありません)。

 企業としては、男性の育児参加という社会的な課題をチャンスと捉え、いかに長時間労働を無くし (固定費を下げ)、労働生産性を向上できるか、貴重な人材を確保できるか、が勝負になると考えられます。

 男性の育休義務化に対して、「義務だから仕方ない」と受動的に受け取るのではなく、「チャンス」と能動的に捉え、男女ともに活躍しやすい企業が増えることを願っています。