【必見】大企業で出世ルートを突き進むエリート男性が育児休業した理由
大企業に入り、出世ルートを突き進むエリート男性が、1年間の育児休業をとった理由について紹介します。
まずはじめに断りを入れておくと、エリート男性とは筆者自身のことです。
自分でエリートを名乗ることには非常に抵抗がありますが、社内の限られた人材しか利用できない飛び級制度 (通常より早い出世制度)を利用し、出世ルートをたどっていたことから、少なくとも自社内では、それなりにエリートとして評価されていたと思っています。
なお、筆者の勤めている会社は、ホワイト企業ランキングで常に上位にあるような企業でしたが、実際の職場は、残業が非常に多く、ひとりひとりの業務負担も大きい職場であった為、育児休業どころか、有給休暇処理すらまともにできるような職場ではありませんでした。
そんな筆者が育児休業を1年間取得しようと決意した理由を、本記事では紹介しています。
注意:本記事は、筆者の個人的な見解が多数含まれていますので、「こういった考え方もあるのか」程度で読み進めて頂ければ幸いです。
1.一般的な育児休業の主な理由
まず、出世ルートを突き進んでいた筆者が、育児休業を決意した理由に触れる前に、一般的に挙げられる育児休業の理由について紹介します。
なお、これから記載する一般的な理由は、筆者が育児休業を決意した"決定的な"理由ではありません。
決して、これら理由を否定するわけでありませんが、一般的な理由の多くは、"閉鎖的な価値観(メリットの範囲が限られた価値観)"である場合が多く、これらを理由に育児休業できる人は限られているように思います。
1-1.家族との時間を確保し、家庭を大切にする為
一般的に一番よく挙げられる理由は、「家庭を大切にする為」です。
この理由は、「厚生労働省:イクメンプロジェクト」のイクメン体験記やSNS等でも多く挙げられており、以下のようなことを含みます。
- 【家庭を大切にする為】
- ・赤ちゃんの急速な成長をリアルタイムで経験したい
- ・育児に向き合うイクメンパパになりたい
- ・配偶者の家事育児負担を軽減し、夫婦円満な家庭を築きたい
- ・家事や育児を夫婦で分担することで、万が一のリスク分散をしたい
なお、筆者は、残業が多く、家族と過ごす時間は多くありませんでしたが、妻が専業主婦で家庭を支えることを希望していた為、家庭を大切にするのであれば、むしろ平日に働いて収入を安定させ、休日に家族との時間を十分に持つことの方が合理的だと考えられる環境でした。
1-2.配偶者の復職や継続就業を支える為
また、政府が良く挙げている理由として、「配偶者 (主に妻)の復職や継続就業を支える為」があります。
詳細は、別記事にて詳しく紹介していますので、本記事では割愛しますが、日本では出産を機に一旦退職する女性が5割程度いて、その内、3割程度が数年後に再就職しています。
また、出産を機に退職する女性の内、約3割程度は「働き続けたかったが仕事と育児の両立が難しい」ことを理由に退職しています。
再就職先を探す大変さや生涯賃金の差、その人らしい生き方等を考えれば、一旦退職せずに育児関連制度を利用しながら継続就業した方が良いでしょう。
働き続けることを希望する配偶者 (主に妻)を支える為に、育児休業をする男性もいるでしょう。
実際に、女性の育児負担によるキャリアへの影響は大きく、男女対等に仕事にも育児にも向き合える社会を実現する為には、男性の育児休業は非常に大きな意義を持っていると考えられます。
ただ、繰り返しになりますが、筆者の妻は専業主婦で家庭を支えることを希望していた為、この理由に直接は当てはまりませんでした。
1-3.仕事がつらくて、一時的に逃げ出す為
直接的に、「仕事が嫌だったから」「逃げ出したかったから」と表現する方は多くありませんが、育児休業を取得した男性の内、一定数程度は当てはまると考えられます。
「仕事よりも家庭に向き合う方が向いている」と表現した方が良いかもしれませんが、仕事での成果や出世よりも、家族と共に過ごす方が、心身ともに健康的だと考えているケースです。
そもそも多くの会社員の働いている主な理由は、「生活収入を得る為」ですので、生活収入が育児休業給付金によって賄えるのであれば、望まない仕事をする必要はありません。
そういう意味では合理的な判断と言えるかもしれません。
しかし、筆者が働いている主な理由は、「仕事を通じて社会貢献する為」である為、仕事そのものが嫌いなわけではありませんし、そこから一時的に逃げ出したいという感情もありませんでした。
むしろ、育児休業に入る直前まで、働き続けたい気持ちとの葛藤で悩んでいました。
1-4.政府や会社から推奨されている為
最後に、能動的な理由はなく「政府や会社が推奨している為」という方もいるようです。
会社によっては、社長直々に「必ず育児休業をしてくれ」と出産を控えた社員に声をかけているところもある為、そういった会社では、能動的な理由もなく、言われるがままに育児休業するケースもあるようです。
筆者の企業は、言うまでもなくそのような超ホワイト企業ではなかったので、この理由にも当てはまりませんでした。
2.エリート男性が育児休業した主な理由
一般的な育児休業の理由を紹介してきましたが、筆者が育児休業した理由は、これら一般的な理由とは異なるものでした。
育児休業を決意するまで、「私と同じ理由で育児休業している人がいないか」と考え、色々と調べていたのですが、ほとんどの事例が「家庭を大切にする」「妻の働き方を優先する」といった、非常に閉鎖的な価値観を理由としたものしかありませんでした。
そこで、私が育児休業した理由について紹介することで、「別の視点で育児休業したい人」に勇気を与えることができれば幸いです。
2-1.今の会社や職場が本当に好きだったから
私が、育児休業を決意した"決定的な"理由は、「今の会社や職場が本当に好きだったから」です。
業務の内容や思想、方針、職場環境など、仕事を取り巻くほとんどの環境が好きでした。もちろん不満がなかったわけではありませんが…。
残業が多く業務負担が大きい職場でしたが、やりがいを感じながら働き続けることができていました。しかし、ある時にふと感じたのです。
「同僚や後輩に介護負担ができたらどうなるのか?」
「同僚や後輩の育児負担が増えたらどうなるのか?」
筆者の職場は、たびたび"うつ"などの精神疾患により、脱落している人がいるような職場だったので、おそらくそういった状態になった同僚は、「脱落者」として別の職場に移されるだろう、と思います。
本当なら、同じ職場で働き続けたい同僚や後輩が、介護や育児を理由に働き続けることができなくなってしまう職場で良いのか、激務に耐えられる人材だけが働き続けられる職場で良いのか、そのような職場が今後生き残れるのか、と次々に疑問がわいてきました。
近年では、仕事のやりがいや出世よりも、ワークライフバランスを重視する若者が増加傾向にあり、一部の業種では、在宅勤務等が可能であったりと、やりがいと柔軟な働き方が両立している職場は、いくらでもあります。
少子高齢化で、優秀な人材を取り合う時代において、私が働いているような「やりがいだけ」の職場が、優秀な人材を確保し続けることは難しい、ということに気付いたのです。
私が好きな職場と業種を、今後も継続する為に必要なことは、業務効率を高めることでも、やりがいを高めることでも、より高い目標を目指すことでもなく、働き方を改善することだと気付いたのです。
働き方を改善するために、私は激務の中で時間を作り、ひたすら業務の棚卸と再構築を繰り返し、無駄な業務を無くしていきました。
職場の意識改革の為に、特定の曜日には必ず定時に帰るように、事務所から後輩から上司まで押し出し、休日出勤をさせないように声をかけ続けていました。
そういった改善により、徐々に働き方に目を向ける同僚や上司が増え始めたのですが、物理的に業務負荷が高いことから、本来労働者の持つ権利である有給休暇等の利用に対しては、消極的な人が多い状態でした。
とにかくお盆や正月、GWといった連休を取りやすいタイミングで計画的に処理するように促し、何とか有給休暇を捨てる人は少なくなりましたが、それでも有給休暇を個人が望む姿で取得することは難しい環境となっていました。
また、やはり出世ルートとしてバリバリ働く職場、という過去のイメージは抜けきれず、育児休業等の長期休業は、そのキャリアを諦める選択というイメージになっていました。
そこで、幸いにも上司や同僚から信頼され、同僚の倍以上の規模 (十数億円規模)のプロジェクトを抱えていた「いわゆる絶対に休めない社員 (筆者)」が、あえて育児休業することを決意したのです。
取得までにいくつかいざこざはあったものの、直属部長や事業部長 (1000人以上の部下を抱える)等から、「君の行動で目が覚めた。体制について真剣に考えたい」と後押ししてくれるようになった為、一定の効果があったものだと思っています。
余談ですが、私の欠員を補うために3人の補充要員 (全て社員)が入っています。
他の職場でそれだけ欠員が出ていることを考えれば、結構な規模で一時的な迷惑をかけていることは間違いありませんが、体制を見直す機会となったことを踏まえれば、将来的には良い効果が出ると思っています。
長くなってしまいましたが、育児や介護の負担を抱える人も、同じように社会で活躍できる環境を作っていかなければならない、という使命感から、筆者は育児休業を決意したのです。
2-2.自らの経験として必要と判断したから
そしてもう一つは、激務に対してやりがいをもって働いている自分では、将来のワークライフバランスを重視する人材をマネジメントできない懸念があると考えた為です。
実際に、私が育児休業するまで、上司に働き方の改善を提案しても、「今の体制は変えない。業務を見直せ」の一点張りでした。
その言葉を受けて、激務の中で時間を作り、業務の見直しをしている際に、「こうして解決したら、私は部下に対して同じように接してしまうのではないか」と感じたのです。
これからの時代は、育児休業に限らず、短時間勤務や残業規制といった制度を利用する人材が増えることが想定されます。
そういった人材をマネジメントする為には、そういった人材の気持ちや思考について、深く理解する必要があると考えられます。
また、属人化 (その人しかできない)業務を無くし、無駄な業務を削減することは必要ですが、変わりゆく時代の中で、一切体制を変えようとしない組織の体質では、今後の変化についていくことができない、と感じたのです。
それらを頭の中で理解していても、自分自身が育児休業を諦めて出世してしまえば、ワークライフバランスの充実や組織体制の見直しについて、いくら力説しても説得力が無くなるように感じました。
また、育児休業を経験した人が上司であれば、部下は育児休業に限らず、その他の休業制度や短時間勤務といった労働制限も相談しやすくなります。
結果的に、本人や配偶者の精神疾患等のリスクも軽減するはずだと考えられます (自ら抱え込む人ほど、精神疾患になりやすいと考えられるため)。
つまり、私が育児休業をしながらも出世を続け、将来マネジメントを担う人材になることで、「育児休業で出世を諦めなくてよい」実績を作ることと、「育児休業しやすい職場の雰囲気」を作ることを目指したのです。
筆者が出世し続けることができるかは明らかではありませんが、同僚からは「君のおかげで育児休業を取りやすくなった。全力で応援したい」とコメントを受けたことから、一定の効果はあったと思っています。
2-3.会社員である前に社会を構成する一員だから
最後に、男性の育児参加は、社会的な課題のひとつです。
少子化対策や育児が持つ本来のやりがいや喜びを感じる為だと表現されることがありますが、何よりも、男性が当たり前に育児をすることは、女性が当たり前に社会進出することに繋がります。
現代の固定的性別役割分担意識 (男は外で働き、女性は家庭を守るべきという考え方)は、その人らしい生き方を阻害しており、人権侵害と言っても過言ではありません。
男性が育児に参加することで、固定的性別役割分担意識を改善することに繋がり、自分たちの子どもの人権を守ることにも繋がります。
私の子どもは男の子ばかりですが、私の息子が「家庭を守りたい」と思っても生きやすい世の中にしてあげたいですし、さらに孫に女の子が生まれた時に「社会でバリバリキャリアを築きたい」と思っても生きやすい世の中にしてあげたいと思っています。
また、現時点では、育児休業がどうしても必要な状態にはなっていませんでしたが、将来に何らかの休業が必要になる可能性や、自分自身でなくても同僚や自分の子どもがそういった状態となった時に、キャリアを諦めざるを得なくなることは避けたいとも思いました。
職場初の育児休業は、一時的に会社に大きな迷惑をかけたとしても、社会全体で見れば、必ずプラスに機能するはずです。
私が働く理由は、「社会貢献する為」ですので、会社の利益だけを考えるのではなく、社会全体の利益を考えた時に、私の育児休業は大きな意味を持つものだと考え、育児休業を決意したのです。
3.育児休業は家族に向き合う為だけに利用するものではない
前述までが、「私が育児休業を決意した理由」です。
私が、前述の休業理由を上司や労働組合に説明した際、「育児休業は、仕事よりも家庭を優先する閉鎖的な価値観を持つ人が利用するものだと思っていた」「職場や社会全体の効果を考えて必要な制度だという認識はなかった」というコメントが多くありました。
やはり「育児のために休業する」という前提が、育児に向き合わなければいけない"特別な事情がある"人が利用する制度という見方をされていたのだと思います。
しかし、筆者としては、"特別な事情が無い"人こそ、積極的に育児休業するべきだと考えています。
筆者のように、"特別な事情がない"人の育児休業が増えていくことで、誰もが当たり前に育児休業してもよい、という意識に変わり、"特別な事情がある"人が、特別扱いを受けなくて済むように (同じように働き続けられるように)なるはずです。
また、そもそも「育児休業されては困る人材」が存在していることや、「育児休業されては困る職場」ということは、大きなリスクを抱えている状態です。
そのような職場において、育児休業することは、職場のリスクを浮き彫りにし、職場の雰囲気や業務の仕組みを見直すきっかけになります。
例えば、今回の新型コロナウイルスの流行は、そもそも事前に予測できたものであり、ある程度のリスクは想定されていたはずですが、その現実味が無いことや、経験が無かったことで、十分な対応が取れていない企業が多くありました。
それと同じように、育児休業も実際に利用した人がいて、その利用によって、一時的に危機的な状態に陥らなければ気付けない場合もあります。
筆者の場合は、事前に業務の棚卸や可視化、引継ぎ資料の整理をした上で、育児休業した為、壊滅的な状態にはなりませんでしたが、介護休業や交通事故などにより、急遽、欠員が発生した場合は、壊滅的になっていたリスクもあります。
つまり、男性の育児休業は、家族に向き合う時間を増やすだけでなく、柔軟な働き方の実現やワークライフバランスの充実、職場の競争力アップ、その人らしい生き方の実現など、挙げればキリがないほどの効果を持っていると言えます。
「仕事を休業するほどではないし…」「出世を諦めたくないし…」と考えているあなたこそ、いま一度、育児休業を検討してみてはいかがでしょうか。