【体験談】長期間の育児休業を取得した男性の感想と必要なこと

 筆者は、某ホワイト企業で1年間の育児休業を取得しました(執筆時点では、現在進行中)。

 某ホワイト企業といっても、同じ職場や事業所内(従業員1,000人以上)に、1年間の長期育児休業を取得した男性は一人もいないような企業です。

 長期間の育児休業をした男性としては、私が第一号だったのです。

 少し話は変わりますが、育児休業を取得した男性の多くは、育児休業の感想として「本当に育児は大変だった」と口を揃えて言います。

 それに対して筆者は、「それは育児休業しなければ分からないことか?」という違和感をしばしば感じていました。

 自分で寝返りすらできないような小さな命を維持することが、どれだけ大変かは想像だけでもある程度は分かるはずです。

 育児休業を取得できなかった筆者の上司も、「育児が大変なことは猿でも分かるよな、聞きたいのはそこじゃないよな」と発言しています。

 もちろん育児の実体験を経て、その大変さをより実感する場面はあります。

 筆者自身も育児休業の実体験を経て、育児の大変さの本質は、おむつ交換などの「肉体面」ではなく、命を管理する「精神面」にあることを知りました。

 育児の大変さを夫婦で共有する為に、育児休業が非常に有効な手段であることは決して否定しません。

 しかし、その大変さを想像する想像力があり、想像する為に必要なコミュニケーション力が夫婦にあれば、実体験と想像の差は小さくなります。

 つまり、「想像よりも大変だった」という感想や体験談では、既に「育児の大変さを理解しているつもりの人」や「配偶者の心境を理解しているつもりの人」には響かないのです。

 さらに具体例を挙げれば、「育児を配偶者に任せて何とか乗り越えてきた年配者」や「祖父母や近隣住民の協力を経て乗り越えてきた人」には、その必要性が理解しにくいのです。

 何を言いたいのかというと、「育児は大変だぞ」という感想や体験談を伝えることで、「育児休業する世代」の意識が少し変わったとしても、「育児休業させる世代」の意識はほとんど変わらないということです。

 「育児休業する世代」の意識付けも重要ではあるものの、筆者自身は「育児休業させる世代」の理解を深める重要性を改めて感じています。

 筆者の過去のツイートの中で、以下の二つのツイートが特に伸びていたことからも「育児休業させる世代」への理解を求めている人たちが如何に多いかが想像できます。

 ただ、現実的に「育児休業させる世代」の理解をこれから深めることは、ほぼ不可能だと考えられます。

 その理由は色々とありますが、そもそも「育児休業がある時代を生きていない」「仕事一筋で出世してきた」人材が多くを占めている為です。

 その為、現実的には「これから育児休業させる立場」に出世する人材の意識を変えることが重要だと、筆者は考えています。

 冒頭からややこしくなってしまいましたが、本記事では「育児休業の感想で伝えるべきこと」「育児休業の感想を発信して変わること」「筆者自身が育児休業を通じて感じたこと」を紹介しています。

1.育児休業した男性の体験談に求められること

 まず第一に、育児休業した男性の感想・体験談として求められている要素を確認してみます。

 分かりやすく言えば、「何のためにどのような感想を求められているか」ということです。

 誤解を招かないように注記しておくと、感想はあくまで感想である為、自分が感じたことを感じたままに書いたとしても悪いことではありません。

 単なる感情の記録や振り返り、頭の整理の為に体験談を記載することもあります。

 今回はそういった自分の為の記録は置いて、「誰かに感想を伝える際に求められるであろう要素」を考えてみたものとなっています。

1-1.育児休業が必要だった主観的・客観的な理由

 誰かに自分自身の育児休業の体験談を伝える場合、置かれていた環境や取得した際の状況は必ず添える必要があると考えられます。

 1人目の子どもで取得したのか、2人目の子どもで取得したのか、はたまた両方で取得したのか、タイミングや事情によってその心境は異なります。

 1人目であれば、「仕事をしながらの自分たちだけで育児をまっとうできる自信が無かった」「そもそも育児は夫婦でするものだ」といった理由が考えられます。

 それに対して、2人目であれば「1人目で仕事をしながら育児をする難しさを実感した」「1人目の面倒を見る人が必要だった」といった理由が考えられます。

 その他、共働きや専業、単独世帯などの育児体制によっても、育児休業を必要とする理由は異なります。

 ここで重要なことは、単に「この理由があったから私は育児休業をした」という素直な理由であることだと考えられます。

 例えば、「育児は夫婦でするものだと認識していたから」という率直な理由でも構いません。

 その理由を聞いて、「その理由なら仕方ない」と思う人もいれば、「そんな理由で?」と思う人もいるかもしれません。

 育った環境や持っている価値観が異なれば、同じ理由を聞いて納得できる人もいれば、違和感を持つ人もいます。

 全ての人に理解してもらおうとする為に綺麗な理由を挙げるのではなく、「率直な理由」を挙げるべきだと考えられます。

 「仕事よりも育児の方が楽しいと思ったから」「幼い子どもの成長を間近で体験したかったから」等でも構いません。

 政府が掲げる育児休業の目的の中には、「家事や育児の負担や喜びを夫婦で分かち合うこと」が明確に記載されている為、決して間違いではないのです。

 場合にもよりますが、「多くの人の納得が得られない理由」であっても「自分にとっては重要な理由」というものは、誰にでも存在します。

 メンタルの強さや家事育児の得意不得意によっても各家庭毎に異なる為、例えば「専業主婦がいるのに育児休業はおかしい」なんてことは誰にも言えません。

 後に続く人のこと考えれば、「そんな理由で取得したの?」と思われるくらいの理由の方が望ましいのかもしれません。

 ただ、そこにもう一つ「近くに協力を得られる祖父母や知人が居なかった」「客観的には必要だったか分からない」といった客観的な理由があれば、さらに良いと考えられます。

 何故なら、男性の育児休業の経験を聞く上で最も気にされることは、「何故、休業したのか」という部分だからです。

 例えば、「育児は二人でするものでしょう」というような主観的な理由だけでは、いまいち理解できない人には理解できません。

 比較的に共感しやすい客観的な理由も伝えることで、「自分は主観的な理由だけでも休業したけど、周囲からみればこういう理由もあったかもしれない」という補足をするのです。

 客観的な理由は、「周囲から見ても必要と感じてくれる」と休業者自身が認識している理由です。

 言い換えれば、育児休業を取得した男性が持つ育児休業に対する価値観そのものを表しているとも言えます。

 意外かもしれませんが、全く同じ環境の人に「客観的な理由を考えてください」と伝えても、全く違う理由が返ってくることがあります。

 この理由なら誰が聞いても納得できるだろう、と思う理由が実はあまり納得を得られないこともあるのです。

 「どのような環境の人が、どういう考え方で育児休業したのか」を知ることで、自分と比較することができるようになります。

 そして、それらの体験談を通じて「これくらいの理由で取得した人がいるなら、自分の環境でも取得して良いはずだ」という自信に繋がるのです。

  • 【育児休業が必要だった理由を伝える目的】
    • ・育児休業した人の生活環境や価値観を知ることができる
    • ・どういう人が育児休業を必要としているか知ることができる
    • ・育児休業を検討している人の自信や決断の後押しに繋がる
  • 【育児休業が必要だった理由を伝えるポイント】
    • ・主観的な理由(着飾らない素直な理由)を伝える
    • ・客観的な理由(周囲の同意が得られそうな理由)を添える
    • ・主観的な理由こそが、特定の人の共感や勇気に繋がる

1-2.育児休業で起きた主観的・客観的な自身の変化

 続いて、育児休業で起きた自分自身の能力や心境の変化についても触れる必要があると考えられます。

 これから育児休業を検討する人にとっては、「育児休業を通じて何が得られるのか」ということは非常に気になる部分です。

 裏を返せば、育児休業を通じて得られる経験や変化が、既に自分が持っているものであれば、育児休業のメリットが一つ減ることになります。

 もちろん能力や心境の変化の為だけに育児休業するわけではない為、「成長に繋がらないから育児休業はやめよう」となるわけでありません。

 しかし、育児休業の決断に迷っている場合は、後押しが一つ増えるか減るかの重要なファクターになるかもしれません。

 そういう意味でも、育児休業で起きた自分自身の能力や心境の変化について触れることが重要だと考えられます。

 こちらも前述と同じように主観的な変化と客観的な変化を挙げると良いでしょう。

 主観的には、「自分は育児の大変さの本質を想像していなかったから、実体験を通じて育児に対する考え方に変化があった」といった心境の変化があります。

 客観的には、「自分は一人暮らし時代が長くて家事は得意だったから変化は無かったけど、家事ができない人はそういう能力の変化もあるかも」といった経験から想像できる変化があります。

 ※言語的な「主観」と「客観」とは、若干意味合いが異なっていると考えられます。ここでは、「主観的=自分の中で大きかった変化」「客観的=自分の中に変化はなかったが体験から想像できる変化」という意味合いで記載しています。

 実体験を整理した上で、自分に変化があったか否かによらず、得られそうな変化(効果)を伝えることが求められているように感じます。

1-3.育児休業で起きた主観的・客観的な家庭の変化

 前述と同様に、育児休業で起きた家庭内の変化についても触れる必要があると考えられます。

 主観的には、「自分たち夫婦はトントン拍子で結婚から出産まで進んだ為、話し合いが足りていなかった。話し合いの機会が増えたことで相互理解が進んだ」といった変化が考えられます。

 客観的には、「出産前から平等に家事を分担していた為、家事分担の変化はあまりなかったが、分担があいまいな夫婦はそういう負荷の変化もあるかも」といった経験から想像できる変化があります。

 育児休業を通じて得られる一番大きな変化だと考えられる為、体験談の中でも特に「知りたい!」と要求されることが多い部分だと感じます。

1-4.育児休業で起きた主観的・客観的な職場の変化

 最後に、育児休業で起きた職場の変化についても触れる必要があると考えられます。

 2021年時点では、男性の育児休業は少数派です。

 男性が育児休業する際に、最も懸念する要素は、間違いなく「職場への影響」です。

 厚生労働省の調査結果を見ても、育児休業を諦めた理由のほとんどが「職場への影響」と「収入への影響」です。

 つまり、職場への影響を語らずして男性の育児休業を語ることはできないといっても過言ではないのです。

 なかには、「無視されるようになった」「嫌がらせを受けるようになった」といった非常に残念な変化もあるかもしれません。

 そういった残念な変化を受けて「働きやすい環境に転職した」「職場での働き方を改めた」といった大きな変化もあるかもしれません。

 反対に「後に続く人が出てきて職場の体制や雰囲気が改善された」「後押しと協力が得られて職場への信頼感が強まった」といった良い変化もあるかもしれません。

 もちろん職場からの扱いや職場の雰囲気などが何も変わらないケースもあるかもしれません。

 実体験に基づく事実を伝えることで、これから育児休業しようとする人たちは「どういうリスクがあるのか」「何を気を付けなければいけないのか」考えやすくなります。

 これから育児休業を支える人たちにとっても、「どういう点で不満や問題が出やすいのか」「どういう変化が好ましいのか」を知ることができ、制度改定や体制見直しに役立てることができます。

2.筆者自身が育児休業を通じて強く感じたこと

 これらの要素を踏まえた上で、筆者自身が育児休業を通じて強く感じたことについて紹介したいと思います。

 ※偉そうにつらつらと書いている割に、主観的な要素が多くなっています。

2-1.育児休業は家族の在り方を見直す機会になる

 まず第一に、筆者の家庭は、出会ってから結婚まで、結婚から出産までの期間が短かったわけではありませんが、家庭や仕事の役割分担は「何となく」で進めていました。

 お互いにそういった知識が乏しかったこともあり、暗黙的に「妻は家庭で~…、私が仕事を~…」と考えていたのです。

 第一子が生まれてからも、役割分担や子どもについて話し合う機会もほとんどなく、あいまいなまま時が過ぎ去っていました。

 そんな生活を続けていると、ある時、妻が「二人目は無理かなー」と言い出しました。

 結婚当初は、「一人っ子はかわいそうだし三人くらいは欲しいね」なんて話していたので、とてもびっくりしたことを覚えています。

 色々と話を聞いていくと、育児の負担が妻に大きく圧し掛かっていたことが原因でした。

 思い返せば、私自身の仕事が忙しくなっていたこともあり、出社前や帰宅後に育児について話し合う機会はほとんどありませんでした。

 妻としては、そんな私を責めるつもりはなく、「お互いに大変だから、お互い様で相談しにくかった」という状態だったようです。

 育った環境の異なる二人が結婚して、二人で小さな命を育てるというのに、私たち夫婦はろくな話し合いを全くしていなかったのです。

 しかし、実は私たち夫婦と同じように、育児や役割分担について「ほとんど話し合っていない」とする夫婦は少なくありません(以下、厚生労働省の調査結果)。

配偶者との話し合いについて

 また、同調査によれば、「育児について何度も話し合った」とする家庭の方が、育児に対して前向きな感情を持っている割合が高い、という結果が出ています。

配偶者との話し合いについて

 話が少しそれてしまいましたが、男性が育児休業すれば、夫婦で一緒に過ごす時間が嫌でも増えます。

 会社の飲み会やママ友との交流で吐き出せていた不満が出しにくくなり、自然と配偶者に対して吐き出すようになります。

 そうすると、「何が不満なのか」「何が足りていないのか」といった話し合いをする機会が増えます。

 そしてその延長線上には、「復職後の理想の働き方(家庭との関わり方)はどうか」という話があります。

 育児休業を終えたら「はい、育児も終わり~」というわけでないことは明らかであり、自然と「復職後はどうしよう」という話し合いが増えるのです。

 夫婦で育児休業することで、お互いにお互いを見つめ直す時間を持ちやすく、十分な話し合いをすることができるのです。

 お互いの不満や良さを話し合う関係性ができれば、後はひとつひとつ解消していくだけです。

 筆者の家庭は、現時点では転職や再就職といった大きな変化はありませんが、「今後どのように生きたいか」は明確に共有できました。

 その生き方に向けて、色々な角度からアプローチを続けている最中です。

 育児休業する前は、ただただ何となく生きていた夫婦でしたが、育児休業で家庭の在り方を見直したことで、明確な目標に向かって共に生きる夫婦に変わったように思います。

2-2.育児休業は会社員として必要な経験である

 私自身が最も強く感じていることは、育児休業などの「私的理由による休業」は、これからの会社員にとって非常に重要な経験である、ということです。

 少子高齢化が進む昨今では、「多様な人材を活かすダイバーシティ推進」が強い注目を集めています。

 各個人には、「年齢、性別、国籍、人種、宗教、性的思考、価値観、ライフスタイル」といった様々な違いがあります。

 これらの違いを許容しながら最大限に活かしていくことが、新たなイノベーションを生み出し、高い労働力を確保することに繋がると考えられています。

 多くの企業の経営理念に組み込まれ、いまやダイバーシティ推進を掲げていない企業は無いといっても過言ではないでしょう。

 しかし、経営理念に組み込まれただけで、実際の働き方がほとんど変化していない企業も少なくありません。

 とある調査によれば、「7割以上の人たちがダイバーシティの重要性を認識しながらも、実際に行動に移せているのは4割程度」だとする結果が出ているほどです。

 つまり、日本国内におけるダイバーシティは、言葉だけが先行し、実行力がほとんどない状態となっているのです。

 裏を返せば、ダイバーシティ実行力の高い人材を多くの企業が求めているということです。

 「ダイバーシティ推進の鍵は、管理職」と認識している企業も少なくなく、これから管理職になっていく人材には間違いなくダイバーシティの知識が求められるようになります。

 実際に、従業員1001人以上の企業では、「管理職にダイバーシティ教育をする」「管理職と制度利用者のコミュニケーションを支援する」とする割合が非常に高くなっています(厚生労働省:仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業(令和2年度厚生労働省委託事業)より)。

 男性の育児休業というマイノリティ(社会的少数派)の経験をした人材は、まだまだ貴重であり、これから大きな価値になっていくことが考えられます。

 マイノリティを経験することで、多様な人材を活かす必要性をより強く実感できるようになるはずです。

 一昔前の終身雇用制度が残っていた時代には、会社のことだけを知り、会社の風土にさえ馴染んでいれば生きていくことができました。

 しかし、近年ではダイバーシティ推進といった社会全体の要求を知る等、より広い視野が会社員にも求められるように変化してきています。

 特定の企業にしがみつく時代は終わり、自分自身の価値観や能力を活かして、社会全体(様々な企業)で活躍していく時代になりつつあるのです。

 これまで特定の会社のことしか知らなかった人材も、育児休業を通じて「会社以外の世界」をより広く知ることができるようになります。

 いかに自分の視野が狭かったかを実感することができ、将来に渡り「広い視野を持つこと(多様な価値観を尊重すること)の重要性」を理解することができるはずです。

 もちろん全ての育児休業した男性が、そういった視野を手に入れられるわけではないかもしれません。

 しかし、育児休業を通じて「働き方の価値観が変わった」とする男性は少なくないはずです。

2-3.育児休業は周囲の当たり前に変化を与える

 また、育児休業は育児休業した人の周囲の当たり前に変化を与える、と考えられます。

 筆者個人の経験談になりますが、筆者が長期間の育児休業を取得したことで周囲の考え方に多くの変化が起きました。

 「兄が後に続いて育児休業を取得した」「同僚が後に続いて育児休業を取得した」「職場の中に暗黙的に子どもの誕生=育児休業という選択肢が増えた」といった変化です。

 こういった男性の育児休業に対する変化だけでなく、「息子が育児休業したことで部下や同僚への接し方を見直した」「妻の働く意欲が増えた」といった変化もありました。

 たった一人の育児休業が、新たに育児休業する人を生み出し、その人達の行動が多くの人々の考え方や職場の意識を変えたのです。

 こうしてみると、人間の当たり前や常識とは、「単なる多数派」でしかないのだということも分かります。

 自分の周囲で「見かけ上の多数派」ができれば、それが自分の当たり前や常識に変わっていくのです。

 個人の行動が周囲の行動に繋がり、周囲の行動がより広い社会の行動に繋がっていくことが実感できます。

 実際に、筆者の職場では、筆者が育児休業するまで「男性の育児休業なんて常識的にあり得ない」という状況でした。

 筆者が育児休業した直後も同じような状況でしたが、同僚や後輩たちが「筆者が育児休業したことで育児休業の選択肢ができた」という反応を示し始めたのです。

 心の奥底にあった「リスクが無いのなら育児休業してみたい」という感情を掘り起こしたのだと思います。

 そして、その内面に隠されていた感情が一部の人たちの中で表に出され始めたことで、職場の常識が変わりつつあるように感じています。

 本当に少しずつではありますが、「男性の育児休業も選択肢にあるよね」という雰囲気に変わりつつあるのです。

 理想は「男性も女性と同じように育児休業するよね」かもしれませんが、この第一歩は非常に大きな意味を持っていると認識しています。

 誰かが育児休業することで、少しだけ敷居が下がり、その敷居で後に続く人が現れることで、さらに敷居が下がる、という正のループが生まれるのです。

 バタフライエフェクト(蝶々の羽ばたきで竜巻が起きる)という言葉がありますが、それと同じように小さな育児休業という行動がダイバーシティ推進という大きな効果を生み出すのです。

2-4.育児休業は子どもの当たり前に変化を与える

 そして、そういった変化は私たち世代だけではありません。

 「父親が家事や育児を主体的にしている」「母親が仕事で活躍している」といった姿を見て育った子どもたちは、それを当たり前だと認識するようになります。

 その子ども世代が同じような働き方や育児との関わり方を維持していくことで、徐々に社会全体に浸透していくのです。

2-5.職場や会社の意識は遅れて変化する

 但し、実際に育児休業を取得して改めて実感したこととして、「職場や会社の意識は一番遅れて変化する」ということです。

 誰かの行動や意識が変わることで、職場や会社の制度改定が必要になる為、仕方がないことなのかもしれません。

 つまり、「会社の理解が無い!」という声が出ることは必然であり、それは会社の制度改定が進む前兆なのだと考えられます。

 実際に変化するのは数年単位かもしれませんし、十数年単位かもしれません。

 その頃には新たな意識の変化が起きていると考えられる為、常に変化し続けなければいけないということが容易に想像できます。

3.育児休業した筆者自身が特に意識したいこと

 育児休業を通じて、改めて筆者自身が意識しなければいけないと感じたことが3つあります。

3-1.「育児休業する世代」の意識を高める発信を心掛ける

 そのひとつめは、育児休業を経験した身として「育児休業する世代」の意識を高めていかなければならないことです。

 たまに、友人や同僚から「何で育児休業したの?」「育児休業しなくても大丈夫だったのでは?」ということを聞かれます。

 そのたびに私は、「育児休業しなくても大丈夫、というのは何を根拠に判断するのか」と聞き返しています。

 その返答は様々で「確かにそうだね」とすぐに理解する方もいれば、「一般的にはしない人が多いから」「妻が専業主婦だから」という返答を返してくる方もいます。

 そもそも育児は誰しもが初めて経験することです。

 初めて経験することに対して「仕事中は任せっきりで大丈夫」と判断すること自体が浅はかだと言わざるを得ません。

 どれだけ仕事やプライベートが優秀で、メンタルが強い妻であったとしても、産後はホルモンバランスの乱れ等で不安定になりやすいものです。

 むしろこれまで様々な事柄を完ぺきに進めてこられた優秀な人ほど、うまくいかない育児に挫折を味わいやすいという意見もあります。

 産後うつは10人に1人が発症するというデータもあり、メンタルの強さや優秀さとは関係性がないとする意見もあります。

 「絶対に幸せに」と誓って結婚した相手に大きなリスクを背負わせて、自分だけ出産前と同じ生活を送って良いのか、改めて考える必要があるのです。

 現代社会では、育児休業を検討する前に「どうせ無理だよね…」と諦めてしまう傾向が強いように思います。

 そこで、私は部下、同僚たちから「子どもが生まれた」という報告があるたびに、必ず「育児休業する?」と尋ね、意識付けをするように心掛けたいと思っています。

3-2.「育児休業させる世代」の意識を高める発信を心掛ける

 また、現時点でもかなり推し進めていますが、「育児休業させる世代」の意識も変えるようにしています。

 上司と1対1で会話する場合は、相手の聞く気持ちや理解度によって異なる為、一方的に「育児休業を推進しろ!」と言っても難しい一面があります。

 今回の育児休業でも、同僚や部下たちは「育児休業いいよね、私もしたい」という反応であるのに対して、上司たちは「オススメしないな」という消極的な反応が中心でした。

 何故なら、一時的な人員減に対応しなければいけない負荷がかかるからです。

 団塊の世代が辞めていくのに合わせて、大量に新卒採用をした企業も多く、子育て世代が会社の中核になりつつあるという背景もあります。

 一人が育児休業すると、どんどん後に続く可能性もあり、同時に2人も3人も職場から居なくなってしまうリスクもあります。

 要するに、上司の理解だけで解決できるほど、男性の育児休業は簡単ではないということです。

 職場の体制に対する考え方が根本から変わらなければ、男性の育児休業は進められないのです。

 私自身はそういった上司の悩みも理解できる為、そのさらに上の階層にいる人事部やダイバーシティ推進部、労働組合に働きかけるようにしています。

 育児休業を通じて「何を得たのか」「何を感じたのか」「制度や体制の課題は何か」といった体験談を、ひとつひとつ整理して伝えていくことで、少しずつ変化していくと信じています。

3-3.堂々と育児制度を活用し続ける(後悔しない)

 また、私自身が育児休業に負い目を感じて働いていては、後に続く人たちが後に続きにくくなる懸念があります。

 実際に育児休業を取得した私自身が、堂々と胸を張って、これからも育児制度を活用し続ける必要があると思っています。

4.育児休業した筆者が一番伝えたいこと

 最後に、育児休業を通じて筆者が一番伝えたいことを紹介したいと思います。

 それは、「これから出世して上の立場になろうとする人ほど、育児休業を経験してほしい」ということです。

 現代ではまだまだ「育児休業は、仕事よりも家庭を大切にすること」というイメージがあり、出世や評価にあまり関心がない人が取得するものという概念があります。

 しかしそれは誤りであり、「育児休業は、目先の業務貢献よりも長期的な社会の持続性を大切にすること」に他なりません。

 また、社会は常に変化している為、「過去に活躍して上司の立場にいる人」と同じ価値観では、社会の変化についていけなくなります。

 これからの企業を背負っていく人材は、そういった社会の変化を捉え、長期的な視野を持って判断していかなければいけません。

 その第一歩として、ぜひとも育児休業を検討していただきたいと思います。