育児休業から復帰する人が抱える3つの不安!【仕事と育児の両立】
女性活躍推進法が制定されたこともあり、社内外で女性活躍の基盤強化が少しずつ進められています。
その一環として、筆者の会社でも育児休業から復帰する人を対象とした復帰前セミナーが開催されました。
このセミナーの内容では、外部講師や先輩社員を交えて、仕事と育児の両立をする為の効率化や制度活用について紹介されていました。
現実的には役に立つ情報であると同時に、女性の扱い方や働き方、幼少期からの人格形成に対する日本の闇の深さを物語っていた一面がありました。
そこで、本記事では、育児休業復帰前セミナーの内容、育児休業から復帰する人が抱える不安や悩み、さらには女性に内面化されている日本の闇について、詳しく紹介しています。
1.実際にあった復帰前セミナーの主な内容
まずは、筆者の会社で実際にあった復帰前セミナーの主な内容から紹介します。
1-1.仕事と育児の両立を取り巻く社会情勢の紹介
復帰前セミナーの冒頭は、外部講師からの仕事と育児の両立を取り巻く社会情勢の紹介がありました。
これは世の中がどういう動きをしていて、自分たちの会社がどのような位置付けで取り組んでいるか、を把握する上で必要な内容であったと考えられます。
基本的な内容は、【男性の育児休業を取り巻く環境は?取得率や期間まで】と変わらず、育児休業取得率や家事育児時間の男女比といった情報である為、本記事では省略します。
1-2.先輩社員による体験談と乗り切り方の紹介
続いて、先輩社員による実際の体験談と仕事と育児を両立する為の心得の紹介がありました。
この辺りから少しずつ違和感を感じ始めていましたが、男性は私しか参加していなかった為、ひとまず大人しく聞いていることにしていました。
その体験談の主な内容は、以下のような構成となっていました。
- 【先輩社員による体験談の主な内容】
- ・当時の家族構成とタイムスケジュール
- ・負担に感じていた部分への対応と向き合い方
- ・家事(料理や掃除)を効率的にこなす方法とアイデア
実際の体験談や乗り切り方は、将来をイメージする上で必要なことであり、この構成そのものには大きな問題は無かったように感じます。
「保育園の送り迎えは夫婦で交代しながら」「料理は家政婦や休日返上で対応」「残業デーを作る」「キッチンから全て目の届く間取りにする」といったことが紹介されていました。
なお、共働き世帯の対応策は、別記事【【もう無理】仕事と子育ての両立の難しさを感じた瞬間に取るべき行動】で詳しく紹介していますので、良ければそちらをご覧ください。
筆者がこの先輩社員の体験談を聞いて、強い違和感を感じたのは、「仕事の持ち帰りが無かったと言えば嘘になる」「でも仕事にやりがいを持って働くことができた」という点でした。
- 【先輩社員の体験談で違和感を感じた部分を抜粋】
- 「一部終わらなかった仕事は持ち帰ってこなしていた時もある」
- 「それでも課長職まで出世させてくれた会社に感謝している」
- 「出世は育児休業した年数分だけ同期よりも遅れたが納得できている」
仕事と育児の両立では、物理的な時間が足りない為、常に大切なことを明確にして、取捨選択しながら生活していくしかないことは、誰もが知っている事実です。
そのような中で、課長クラスまで出世している先輩社員が、「一部終わらなかった仕事は持ち帰ってこなしていた時もある(無償労働)」という体験談を話していると、それを聞いた人はどのように感じるでしょうか。
確かに本人のやりがいや意識付けは大切かもしれませんが、「やはり仕事と育児を両立する為には、仕事の持ち帰りが必要になる」「仕事と育児の両立には、プライベートの犠牲が必要になる」と感じる方も多いのではないでしょうか。
「自分の能力不足で終わらなかった分を持ち帰っているから仕方がない」ということも話されていましたが、それはその能力の人材にその業務を割り振った会社の責任であり、本人の責任ではありません。
一般社員がこのように考えてしまうことは仕方がないかもしれませんが、現在管理職である課長クラスの方が、このような考え方を平然と100人以上の社員に話していることは、非常に気持ち悪いことではないでしょうか。
この理論が成立するのであれば、勤務時間内で絶対に終わらないボリュームの業務を与えるだけで、「業務をこなせないお荷物」になるか「無償で働く会社の犬」になるか、の二択を迫ることができてしまいます。
「出世や継続勤務」という餌をぶら下げて、本人が喜んで「無償で働く会社の犬」になるように教育しているのです。
さらに、管理職がこのような考え方を持っているということは、「責任感があるなら持ち帰ってでもやるべき」と部下に暗に強制してしまう可能性もあります(直接的な言葉にしなくても、持ち帰ってやる責任感を好意的に思っている為)。
1-3.背景に隠れた幼き頃からの教育と擦り込み
そもそもこの先輩社員は、「女性がキャリアを目指すことは難しい」「やっぱり家事や育児の主体は女性が多い」という幼き頃からの教育と擦り込みによって、「働き続ける為には、何らかの代償を支払わなければならない」と勘違いしてしまっているのです。
正確には"勘違い"ではなく、それが"今の世の中における現実"かもしれませんが、それを心の底から受け入れてしまってはいけないはずです。
少なくともこの体験談を話していた先輩社員の方は、課長職という立場で話をする以上、「私は受け入れている」というスタンスで話をするべきではなかったはずです。
また、課長職であれば、その業界やその課や部を取り巻く課題を広く理解し、積極的に解決していく為のアプローチをしていかなければならない立場です。
それにも関わらず、「育児休業した私を課長まで出世させてくれたこと」に満足してしまい、課長職としての職務を忘れてしまっているともいえるかもしれません。自分の能力に関係なく、「課長」という立場を与えてくれたこと自体に満足してしまっているのです。
しかし、そもそもその立場(今回の例で言えば課長)としての話し方ができない時点で、課長職に付く能力はないとも言えるかもしれません(本人も非常に思い悩んでいる様子)。しかし、会社としては、「育児休業しても出世できるよ」「女性の課長もいるよ」という実績作りに躍起になり、能力不足であっても"会社の為に"、このような人材でも出世させているのです。
これは、課長クラスに上がった女性が悪いわけでも、課長クラスに引き上げた会社が悪いわけでもなく、社会の意思で女性を振り回している社会全体が悪いのです。
「女性は家事や育児を主体に」と散々教えられてきた中で、「やっぱり男女平等でしょう」という流れが強くなってきた為に、家事や育児の負担を軽減する間もなく、無理に女性の管理職を増やしているのが現状です。
しかし、多くの女性は幼き頃からキャリア形成を壊されている為、「管理職になって業界をけん引したい」というようなイメージを持てていることは多くありません(又は、イメージを持てていても具体化できる前例が少ない)。
実際に、この先輩社員も「自分が管理職になれば、後に続く人も管理職になりやすい」「課長に満足している」ということがモチベーションだと話していました(これはこれで気持ちをうまく整理できていると思います)。
しかし、これでは本来の管理職としての役目を果たすことができず、「やっぱり女性の管理職は役に立たない…」となってしまう懸念があります。
話が発散してしまいましたが、男性が普通に生活しているだけでは気付くことがない、社会の闇の深さ(女性の苦しみ)を改めて感じる瞬間だったように思います。
1-4.大多数の女性が違和感を感じていなかった
こういった違和感を感じる復帰前セミナーでしたが、実際には受講者のほとんどが違和感を感じずに聞いていたようです。
受講後のアンケート結果を見ても、「家事や育児の効率化の方法があって良かった」「夫も育児をするように再教育したい」というような意見が並んでいました。
この感想そのものは間違えていないかもしれませんし、それが現実ですが、そもそもこのセミナーは「育児を主体的にしてきた復帰者」しか受講していません。
本来、夫婦共働きでキャリア形成を望むのであれば、復帰者(主に女性)だけでなく、その配偶者(主に男性)も一緒に受講し、妻の負担や悩みを共有しておくべきだとは感じないでしょうか。
女性だけに対して、「家事や育児の効率化の方法を学ぼう!」「育児の協力者探しをしよう!」とアプローチすることに違和感を感じなければいけないはずです。
こういった復帰者セミナーを行うのであれば、復帰者の配偶者(又は子を持つ者)に対しても、同じようにセミナーを行うべきだと気付かなければならないはずです。
結局のところ、復帰前セミナーという名を借りた「自分たちの会社の評判を上げつつ、育てた人材を継続勤務させるセミナー」でしかないのです。
実際に、社内で男性向けの育児制度の説明やセミナーは一切開催されていません。
「自社で働く男性には育児の話はしない」「自社で働く女性には、配偶者に育児をさせろと話す」という自社の利益のみを最優先しているとも言えるかもしれません。
利益を追求する株式会社としては、間違えていない姿勢なのかもしれませんが、やはり違和感が残る部分だと言えそうです。
2.育児休業から復帰する人が抱えている主な不安
続いて、実際に育児休業を復帰する人が抱えている主な不安について、セミナーの事前アンケートで寄せられていた不安を基に紹介します。
2-1.一番の不安は「仕事と育児の両立ができるか」
一番の不安は、やはり仕事と育児の両立ができるか、ということです。
「保育園の送り迎えを決まった時間に行けるか」「業務を時間内にこなせるか」「各種制度や代行業の活用が必須か」といった悩みが多くあります。
これらの悩みは、夫婦で家事育児に向き合っていたとしても、なかなか解消できない悩みです。
保育園の送り迎えがある以上、どちらか一方の残業は制限されますし、急な体調不良等にも対応しなければいけません。
祖父母が離れていたり、代行業が盛んでない地域では、自分たち夫婦で何とかしなければならないことも多いものです。
「時間に制限がかかる」ということは、物理的に自由が失われる為、どうしてもこれまで通りの仕事ができるか、という不安を持ちやすいでしょう。
2-2.具体的には「家事や育児をこなせるか」
具体的には、仕事に意識を向けすぎるあまり、家事や育児がおろそかになってしまわないか、と不安に感じている方も多いようです。
「3歳児までは両親が一緒に居た方が良い」という意見もあり、保育園やベビーシッターに長時間預けておくことに抵抗がある方も少なくありません。
その意見の正否は判断できませんが、昼間は保育園やベビーシッターに預け、夜間は持ち帰った業務や家事をこなしていると、子どもと接する時間が短くなることは間違いありません。
どうしても専業主婦や仕事をセーブしている家庭に比べると、子どもと接する時間が短くなってしまう分、「これでいいのか…」と悩み、不安に感じる方も多いのです。
2-3.具体的には「仕事に迷惑をかけずに働けるか」
また、保育園への送り迎えや子どもの体調不良による休暇等、業務に支障が出ることも少なくありません。
そういった迷惑をかけないことは現実的に不可能かもしれませんが、その迷惑が誰かの反感を買ったり、誰かの負荷増大に繋がらないか、不安に感じるものです。
独身の方や専業主婦に任せっきりの男性と比べると、どうしても仕事に注力できる時間が減ってしまう為、自分だけ時間的な制限を持っていいのか、という不安を持ちやすいでしょう。
2-4.職務や出世への影響を不安に思う声は意外と少ない
このアンケートで意外だったことは、職務や出世への影響について質問している方が居なかったことです。
「職務や出世よりもまずは働き続けられるか」ということに重点が置かれており、マズローの欲求五段階でいう第二段階「安全欲求」に危機を感じている状態だとも言えます。
「まずは働き続けられるならセーフ」「むしろ出世による負担増大に耐えられない」ということが率直な感情であり、社会で何かを成し遂げたいというキャリア形成に目を向けにくい状態となっているのです。
同じ境遇に置かれたとしても、男性はこのような感情にはならないことが多く、いかに女性の潜在的な意識の中に家庭が擦り込まれているかが分かります。
3.育児休業から復帰する際の不安を解消する職場の対応
続いて、育児休業から復帰する人たちのこういった悩みや不安を解消する為に、職場が取るべき対応について紹介します。
3-1.大前提はやはり活躍し続けられる環境作り
やはり大前提は、「本人が活躍し続けられる環境づくり」だと考えられます。
注意しなければならないのは、「働き続けられる環境づくり」ではない、ということです。
育児休業を取得しても働き続けられる環境づくりは、育児休業法や代行業によってかなり整備されつつあります。
「子どもの体調不良による休暇」「産前産後の休暇」「子を養育する人の短時間勤務」これらは全て法律によって定められている為、事業者は要請を拒むことができません。
また、これらの育児制度を利用することによる不利益な取扱いも、法律によって制限されている為、強い精神力さえあれば、働き続けられないことは少なくなってきています。
しかし、実際には、時間的な制限ができたことで、「業務のやりがいが減った」「責任ある業務を担えなくなった」「キャリアの再構築が必要になった(研究から総務に異動など)」といったことは少なくありません。
働き続けていれば、給与は受け取れますし、別の分野で何らかの社会貢献ができているかもしれませんが、それでは本人の能力を活かした活躍ができているとは言えません。
育児を担う人を「とりあえず働き続けられればいい」という環境に押しやるだけでは、育児を担っていない人に負担が掛かることは避けられませんし、特定の分野では育児を担う人が活躍できないことになります。
本来は、研究職でも医者でも教師でも一般職でも、育児を担いながら時間内で能力を発揮できる環境があるべきです。
3-2.自分たちの働き方は制限ではなく理想という意識付け
そういった環境づくりには、「自分たちの働き方は"制限"ではなく"理想"という意識付け」が欠かせません。
育児を担っている人の多くは、「残業に制限がかかって職場に迷惑がかかる」「急な事情(子の体調不良等)で休暇して職場に迷惑がかかる」といった悩みを抱えています。
しかし、そもそもを考えれば、「残業せずに時間内で終わらせる努力をして働き、急な諸事情では休暇が取れる」というのは、当たり前の働き方ではないでしょうか。
むしろ「残業に制限なく働く」「休みは会社に合わせる」という状況の方が異常であり、そういった働き方に合わせる必要は無いのではないでしょうか。
育児を担うことで、半強制的に「残業制限」や「急な休暇」が発生している方は、理想的な働き方に向けて、自分たちが先駆けて挑戦している、と誇りを持っても良いかもしれません。
自分たちの働き方を職場に合わせるのではなく、職場の働き方を自分たちに合わせていった方が、職場全体がハッピーになることは間違いありません。
もちろんその過程には、職場体制の見直しや業務の棚卸が必要になるかもしれませんが、「自分たちの働き方に劣等感を持たない」ことが大切だと考えられます。
3-3.業界に対する問題意識があるなら貪欲に出世を
そのように考えると、業界に対する問題意識や社会貢献の欲求があるのであれば、貪欲に出世を目指していけばよいとも考えられます。
良く「育児をしながら課長職は務まらない」「業務負担が増えるから出世したくない」という声を耳にしますが、これは間違いです。
そもそも課長でも部長でも社長でも、育児や介護をする可能性はあります。体調不良によって働き方に制限が出る場合もあるでしょう。
本来は、そういった役職を持つ方であっても、自分自身の働き方を客観的に把握し、育児や介護といったプライベートな時間を使えるようにしておくことが必要です。
役職を持つと責任が増えることは事実ですが、業務が増える、というのは正しくありません。
むしろ時間内で最大限の成果を出すように努め、働き方への意識を持っている方が、管理職として理想的であるはずです。
ダラダラと遅くまで残り、最後まで職場に残っているような管理職は、業界や社会の課題を理解しているとは思えません。
残業や出勤に制限のある働き方を経験してきたからこそ、貪欲に出世を目指し、管理職として職場や社会の意識を変えて頂きたいものです。
3-4.ただ単に出世できるだけでホワイト企業ではない
また、これからの世の中では、ただ単に出世できるだけでは、ホワイト企業とは呼べなくなってきています。
育児休業や各種育児制度(短時間勤務等)を利用した人が、職場の働き方に合わせて(業務の持ち帰り等をして)いるようでは、職場の働き方はいつまで経っても改善されません。
働き続けられた人が、年功序列的に出世していくだけでは、「何とかしがみつけ」「努力して乗り越えろ」という意識が正当化されてしまい、会社の為にもなりません。
現時点では、育児休業が取れるだけでもホワイト企業を名乗れるかもしれませんが、これからの時代は、育児休業して出世できるだけではホワイト企業とは言えなくなります。
誰もが家庭や自分自身の事情に合わせて働き方を見直し、能力を最大限に発揮できることがホワイト企業の要件になっていくはずです。
女性の育児にだけ焦点をあてるのではなく、男性の育児にも焦点をあて、社会全体の課題解決にも目を向ける必要があります。
そういう意味では、「残業ありきの業務体制を改善する」「急な欠員に対応できない仕組みを改善する」ということは欠かせないでしょう。
つまり、実際に「残業制限アリ」「急な欠員アリ」を経験した人こそが、これからの企業を背負っていくと言っても過言ではないように思います。
4.無意識に自分のことを過小評価していませんか?
本記事内では、繰り返し記載してきましたが、「残業できない自分の価値は低い」「急な休暇のある自分に責任ある業務は担えない」というように、自分自身を過小評価してしまっていないでしょうか。
しかし、これらはあくまで働き方の制限でしかなく、能力そのものに対する評価ではありません。
「能力=能力の精度×能力の発揮度」と考えれば、能力の発揮度が制限のない人よりも少ないように感じられますが、裏を返せば、能力の発揮度が同じであれば、あとは能力の精度だけに依存します。
現代では、働き方を改善し、育児を担う人も担っていない人も、同じように能力を発揮できるような職場を構築している会社も少なからずあります。
ママ向けキャリア転職支援サービス【ママキャリ】では、そのような会社を含めてワーキングマザーに合う働き方を見つけだしてくれます。
「転職はいろいろと負担がかかりそう…」「転職は職場に迷惑がかかりそう…」と悩む方も多いですが、将来に備えて今のうちにより働きやすい環境を探しておくことは重要です。
例え転職したくない場合でも、自分の市場価値を確認し、万が一の際にどういった働き先があるのか、確認しておくだけでも大きな意味があります。
一度も市場価値を把握したことがないという方は、ぜひ一度ママ向けキャリア転職支援サービス【ママキャリ】に無料相談してみてはいかがでしょうか。