【新制度】男性「産休」新設の流れ!分割取得や休業中の就労を容認か

 「厚生労働省は、男性「産休」新設に向けて審議を進めている」といった話題が上がっています。

 しかし、実際に審議会で提案されている男性の「産休」制度は、主に「子の出生後8週間以内に限定して、現行の育児休業の条件を一部緩和した制度」でしかありません。

 そもそも女性の産後休業は、労働基準法で定められた「母性保護規定」に基づく休業であり、「(前略)…産後は8週間、女性を就業させることはできません」と強制力を持った規定となっています。

 それに対して、男性の「産休」と言われる新制度は、一般的にイメージされるような「産休」とは、全く異なっているものであることに注意しなければいけません。

1.男性「産休」新制度の必要性

 そもそも男性「産休」が検討される目的としては、「希望に応じて、男女ともに仕事と育児を両立できる社会の実現」があります。

1-1.男女の育児休業取得率に大きな差がある

 しかし、現状は、女性の育児休業取得率が「80%代」で推移しているのに対して、男性の育児休業取得率は「一桁代」で推移しており、男女間に大きな差がある状態です。

 男性の育児休業取得率が低い理由としては、「職場の雰囲気の悪さ(又は理解の低さ)」「業務調整が難しい」といったことが挙げられています。

 そういった男性の育児休業を妨げている要因を排除する為に、「柔軟で利用しやすい制度の新設」と「育児休業を申請しやすい職場環境の整備」が掲げられています。

 つまり、今回検討されている「男性の産休」は、前述の「柔軟に利用しやすい制度」に該当した検討となっています。

1-2.男性の育児参画を促進する狙いがある

 また、男性が出生直後の育児に関わることで、育児の大変さや喜びを実感し、その後の主体的な育児参画に繋げる狙いがあります。

 育児の大変さや喜びを夫婦で実感し、共有することは、そもそもの育児休業法の趣旨でもあり、その実現をさらに加速する意図があると考えられます。

2.男性「産休」新制度の主な要件

 では、現時点(2020年12月14日資料)で厚生労働省が提案している男性「産休」について、詳しく見ていきます。

2-1.休業の申請期限を従来より短縮する

 まずはじめに、現行の育児休業は、原則4週間前までの申請が必要であり、柔軟性が低いとの指摘があります。

 そこで、子の出生後8週間に限定し、その「申請期限を原則2週間前まで」に短縮した制度とする方向で調整されています。

 但し、職場環境などの整備について、法改正による義務を上回るような取り組みを定めている事業所においては、これまで通り1ヵ月前までの申請期限としても良いこととする方向となっています。

 つまり、「ちゃんと育児休業しやすい職場環境を整備している事業所なら、従来の1ヵ月前申請でも十分に申請できるはず」「育児休業しやすい職場環境を整備できていない事業所は、ぎりぎりの2週間前でも良いようにしよう」と読み取ることができます。

 この解釈であれば、「育児休業は、業務調整できてから申請するもの」と捉えられているように見えます。

 本来は、育児休業に伴う業務調整は職場の義務であり、業務調整できようができまいが、労働者は育児休業を申請して良いものである為、少し違和感はあります。

 今回の申請期限の短縮は、「業務調整できなければ、育児休業を諦めざるを得ない職場」が存在していることを暗に示しており、その対策となっていることが推測できます。

 ただ、休業開始1ヵ月前までに業務調整できない(しようとしない)企業が、休業開始2週間前までに申請期限が緩和されたところで、業務調整されるとは思えない為、効果があるかは怪しいと考えられます。

 本制度が制定されれば、「休業開始の2週間前まで一切相談せず、ぎりぎりの2週間前に急に休業申請してくる非常識な人」が出てくるリスクがあり、企業側は、嫌でも「育児休業に対する意向確認」を積極的にしなければいけなくなる狙いがあるのかもしれません。

 なお、出生が予定日より早くなった等の場合は、現行の育児休業でも1週間前までの申請で育児休業できる為、今回の制度は、あくまで「出生や母性保護に対する柔軟性」ではなく、「職場の業務調整に対する柔軟性」が主体だと考えられます。

2-2.休業の分割取得を可能にする

 また、従来の育児休業は、分割取得ができない(又は困難である)ことから、柔軟性が低いとの指摘があります。

 そこで、出生後8週間に限り、「分割取得(2回)が可能な制度とする」方向で調整されています。

 たった8週間に、分割して休業したい方がどれだけ存在しているかは明らかではありませんが、例えば「業務調整がつかず、休業に突入した労働者が、出生から少しだけ落ち着いた時期(例えば4週間後等)に一旦復職し、業務調整がつき次第、再度休業する」といったケースが考えられます。

 ただ、女性はそもそも労働基準法によって、原則、産後8週間(少なくとも6週間)は就労できませんし、男性は元々再休業できる「パパ休暇」制度があることから、誰の為の分割取得なのか、いまいち焦点は分かりません。

 本制度によって、「休業の柔軟性を高める」という趣旨は満たすものの、その一方で「業務調整等を理由に、分割取得させる」等、制度を悪用する企業が出てこないことを願うばかりです。

2-3.休業中の労働を一定程度容認する

 さらに、従来の育児休業では、(ほぼ)認められていなかった「休業中の就労」を、出生後8週間に限定し、容認する制度とする方向で調整されています。

 但し、これは審議会の中で「育児に専念する為に休業するにも関わらず、本人の意に反する就労を半強制される可能性がある」「女性は、強制的に就労禁止であるのに対して、男性だけ就労可能とすることはおかしい」等と指摘されていたようです。

 実際には、業務調整が付かず、休業後も隠れて(無給で)、在宅勤務対応している人が存在していることを考えれば、実態に合わせて調整する意向なのかもしれません。

 ただ、個人的には厚生労働省の資料中にある「出生後8週間以内は、女性の産後休業期間中であり、労働者本人以外に育児することができるものが存在する場合もある為、(中略)…あらかじめ予定した就労を認めることとしてはどうか」という文章に違和感があります。

 そもそも女性の産後休業は、「母性保護」が主な目的であり、就労が困難な身体である女性に対して、自宅で育児を強要させる、ということは、目的に反しているように感じます。

 ここでそういった指摘をしても仕方がありませんが、暗に「男性は子育ての補助的な役割」としているような文章にならないように、気を付けて頂きたいものです。

3.男性「産休」新制度は産休とは言えない!

 ここまでご覧いただいた方であれば、既に理解されていると考えられますが、世の中で男性「産休」と言われている新制度は、「産休」と言えるような制度ではありません。

 なお、厚生労働省の資料中にも、「産休」という言葉は一度も出てきていません。

 メディアが取り上げる過程で、出生後に限定した休業を「産休」として扱ったものだと推測されます。

 繰り返しになりますが、「産休(産前休業・産後休業)」は、母性保護を目的としており、今回の新制度とは全く位置付け(主な趣旨)が異なっています。

3-1.男性の育児休業が進まない理由は別にある

 なお、男性の育児休業が進まない主な理由は、「制度の柔軟性の低さ」ではないことは明らかです。

 厚生労働省が実施している調査結果によれば、男性が育児休業しない主な理由は、「職場の理解度の低さ(業務調整含む)」「制度に対する男性の理解度の低さ」となっています。

 詳細は、「【人事必見】男性の育児休業取得率が上がらない理由は?意識改革が必要か」でも紹介していますが、やはり「男性の育児に対する意識の低さ」を解消することが最優先であると考えられます。

3-2.本質は「育児休業推進義務化」にある

 その社会的な(個人含む)男性の育児に対する意識の低さを変える為には、育児休業の推進を義務化することが有効だと考えられます。

 同審議会の中で、「配偶者の妊娠・出産の申し出をした労働者に対し、個別に周知し、取得の働きかけを事業主に義務付ける」ということが提案されています。

 育児休業の取得を妨げている「制度に対する理解の低さ」「職場の雰囲気の悪さ」を解消する為に有効だと考えられ、「男性の産休」と騒がれている制度よりも、圧倒的にこちらの方が大きな意義を持っていると考えられます。

 現時点では、どこまで義務化されるか、義務化された内容にどこまで事業主が従うかは分かりませんが、これが法改正に折り込まれれば、従来よりも育児休業しやすい環境ができることが期待されます。

 なお、育児休業推進の義務化の必要性などについては、「【最新】男性の育休(産休)義務化で社会はどう変わる?企業側の対策は?」にて詳しく紹介していますので、よければそちらもご覧ください。

4.本来の意味の男性「産休」新設を願う

 最後に、現時点では厚生労働省の検討には含まれていませんが、筆者個人としては、本来の意味の男性「産休」新設を願っています。

 特に、第二子以降の出生時には、安静にしなければならない産前6週間の間に、第一子を養育しながら生活しなければならず、企業による就労が制限されても、家庭内の労働は制限されることが無い場合も多くあります。

 また、産後8週間においても同様であり、本来の目的である「母性を保護する」ということに反している場面も多くあります。

 原因はこの限りではないと考えられますが、産後1年間の女性の死因トップが「自殺」であることから見ても、現在の「母性保護規定」だけでは不十分であると考えられます。

 また、女性は「妊娠を通じて母親の自覚を持つ」とされるのに対して、男性は「育児を通じて父親の自覚を持つ」とされている現状が、父親の育児能力の低さに起因しているという考え方もあります。

 「本来の目的である母性保護を実現する」「出生前から父親の自覚を持たせる」といった観点から考え、今回の新制度を皮切りに、本来の意味の男性「産休」(強制力を持つ産前産後休業)についても検討していただきたいものです。